夏の1日と彼の優しさ?-31
「町田だけど」
「え?マジ?」
「…マジだけど、何?」
驚いた声を出す猛に美咲は訝しんで眉を顰めるが、それはすぐに驚きへと変わった。
「オレも町田なんだよ」
「え?」
「それなら最初から待ち合わせしとけば良かったな…」
そう呟く猛に、美咲はすぐに朝の痴漢のことだと分かって反応に困った。猛のせいじゃない、というかもう朝のこと以上に自分を気にかけてくれている目の前の恩人にどう答えを出すべきか。悩んだ末に美咲は猛の頬に手を伸ばした。
「私は大丈夫だよ」
「美咲…?」
「私は弱くない。それに、猛が守ってくれるから」
「でも、オレは…」
「今日楽しかったのは猛のお陰だよ?だから、ありがと」
「……お礼なんて言われるほどお前に何かしてない」
美咲の言葉に、絞り出すように声を出す猛。その声はまた何かを耐えるような辛そうな声で、美咲はどうすれば猛が少しでも笑ってくれるのかを考えて――実行した。
猛の頬に触れたまま、もう片手で猛の目を塞ぐ。何事かと身を強張らせる猛だけどそこから動くことはしないのを確認して美咲はそっと背伸びをしながら猛に身を寄せた。
そして、そのまま触れるか触れないか程度に口づけをした。