夏の1日と彼の優しさ?-25
「そ、そうじゃなくてだな…」
さっきまでの美咲の雰囲気から一転、いつものように自分を睨みながら迫ってくる美咲に猛は喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な気持ちになっていた。それでもさっきした約束を破るわけにもいかず、数秒「あー…うう…」と呻きながらも観念して美咲の言う通りにすることにした。
「…み、美咲さん」
「聞こえない」
「美咲、ちゃん」
「…聞 こ え な い」
「美咲!これでいいんだろ!」
呼び方を変えることで逃げようとした猛を許さず美咲がジトっとした目を向けると、いよいよ観念した猛が自棄になって叫んだことによってようやく美咲の満足を得たらしい。笑顔の美咲に猛が苦笑いしていると、美咲の口からさらっと猛が硬直する言葉が出て来た。
「うん、それでいいんだよ。猛」
「…か、上代さん、今…」
「呼び方が戻ってるよ?」
「あ、美咲…いやそうじゃなくて!今オレの名前…っ」
「猛だって名前で呼んでるのに私は下鷺君だなんて、嫌だよ。それとも名前で呼ばれるのはやだ?」
「そ、そうじゃなくて。呼んでもらえるとは思ってなかったらうれ…」
嬉しくて。そう言いかけたのを自覚して猛は思わず自分の手で口を押えそれをなんとか阻止する。そんな猛に首を傾げる美咲だけど、追求する気はないのかベッドから出て猛と一緒に医務室を出て嵐士達を探しに行くことにした。