夏の1日と彼の優しさ?-2
「本当はあいつとデートするつもりだったんだけど、兄貴のバイト先の先輩が結構くれたらしくてさ。その余りがこっちまで回ってきたんだよ」
「兄貴?ああ、そういやいるって言ってたっけか」
そこまで言って、嵐士は止めていた箸を動かしながら猛に説明を続ける。
「んで、5枚貰ったはいいんだけど誰を誘うか迷ってさ。まだ決まってはないんだけど俺とお前とあいつと、上代と櫻井でどうかと思ってよ」
「…上代さん?」
嵐士が美咲の名前を出した途端、猛の手が止まった。それを見た嵐士は特に気にした様子もなく淡々と事実を述べていく。
「ああ、俺の彼女と櫻井って幼馴染なんだよ。んでもって櫻井と上代って仲いいだろ?これで丁度5人だし、お互いそこまで知らない仲じゃないしいい条件だと思うんだけど」
「……――れ」
「ん?」
「連れてってくれ!」
最初は小声で聞き取れなかった猛の言葉を聞き返す嵐士に、今度はさっきよりも大きく叫ぶように猛は言った。さっきまでのやる気のない表情から一転、必死の表情に嵐士は虚を突かれながらも何とか頷き猛の願いを了承した。
それを見て、猛は俯き加減に無意識に小さく笑みを零す。
この1週間、猛は嵐士から美咲の色々な話を聞いていた。元々嵐士は美咲と同じ中学校で、3年間同じクラスでそれなりに話しはする仲だったらしい。だからこそ嵐士は美咲を誘うことに何も抵抗がなかったのだけど、猛はその話を聞いてる心の中で嵐士が羨ましかった。美咲の中学校での話、そして高校での話…高校に至っては嵐士以外にも何人もの人に聞かされている。
猛は、さっきまでのやる気のない気分から一転嵐士からの誘いに浮かれた気分で昼休みを過ごした。