夏の1日と彼の優しさ?-16
それを何回か繰り返すと、ようやく美咲が水を吐き出し咳き込んだ。
「げほっ、かはっ…」
「美咲!」
「美咲ちゃん!」
咳き込んだのを見た春香と棗は二人とも涙目で美咲のそばに寄りそう。まだ虚ろな瞳だけど、それでも辛うじて意識が戻ったのを確認した猛は安心から大きく息を吐きだした。そして猛はゆっくりと美咲を横抱きに抱えこの施設の医務室に運ぶ。もちろん、ほかの3人も一緒について行った。
抱きかかえられ、運ばれている最中に美咲は辛うじて保っている意識の中で何かを懐かしく思っていた。
…どうして、体が動かないんだろう。そして、この匂いを知ってる気がする。誰…?誰なの?前にも助けてくれたこの匂いと――。
そこまで逡巡して、美咲はまた完全に意識を失った。
医務室に着いて係員に事情を話し美咲をベッドに寝かせた猛は前髪を上げたまますっと目を細めた。
「お、おい、猛…その前髪」
「ん?ああ…悪い。ここだけの秘密にしといてくれ」
戸惑った嵐士の問いかけに振り返った猛は前髪を戻しながら苦笑いする。
3人は揃ってぎこちなく頷きながら、チラッとだけど初めて見た猛の顔に戸惑いを隠せずにいた。
普段は前髪で隠れていた日本人離れした青い瞳。
猛は再度濡れたままの前髪を前に戻し終わると医務室から出て行こうとする。
「どこ行くんだよ」
「……ちょっと野暮用。上代のことよろしくな」
ドアに手を伸ばしながら振り返らずにそれだけ言うと猛はそのまま医務室を出た。