夏の1日と彼の優しさ?-15
何やら不穏な空気を感じた猛と嵐士は3人の元へと駆け寄った。
「櫻井、どうした?」
「棗?上代は?」
嵐士が美咲の名前を出した途端、猛は近くに美咲がいないことに気が付きパーカーのままプールに入って春香の肩を掴む。
「おい、櫻井!上代さんは?!」
「し、下鷺…っ美咲が!」
いつもは滅多に取り乱すことのない春香の、焦った表情。それを見た猛は背筋が凍りつき前髪の奥で目を見開く。そしてバッと浮き輪の方を見るとプールの中でゆらゆらと揺れている黒いものが見えた。
「―――上代!!」
それが何かを理解した途端、猛はすぐさまプールの中に潜ってそれを抱きかかえプールから上がる。
「おい、上代!上代!」
猛に抱きかかえられている美咲に意識はない。そのことでさらに焦った猛は奥歯を噛みしめながらいくら揺すっても意識が戻らない。溺れたことで美咲は多く水を飲みこんだらしい。それに気が付いた猛はその場に美咲を横たわらせ今や濡れてうざったい前髪を掻き上げ顔を近づける。
猛の鼻と美咲の鼻がくっつく距離で、匂い立つプールの塩素と仄かな甘い香り。甘い香りが美咲の匂いだと分かって一瞬猛の行動を躊躇わせたがそれでも止まらず猛は美咲の柔らかい唇に同じものを押し付けた。
そこから息を吹き込み、すぐに離れて美咲の左胸に両手を当てて水を押し出す。
「っ、上代――!」