計画的犯行…?-1
ある学校の階段の側にある教室の中に、
「はぁーぁ〜…」と
やる気のないため息をついている女子高生と、
「お前さ…覚える気あんの?」と
呆れ顔でその学生を見る教師が一つの机を挟んで向かいあっていた。
机といっても学校にある学習机なため2人の距離は50?程であり、少し前屈みになれば頭と頭がぶつかってしまいそうな距離なのである。
そもそも何故二人がこうなっているかというと、学生の如月柚季(キサラギユウキ)がテストで悲惨な点を採ったからである。
「それにしても俺のテストでこんな点、採る奴がいるなんて…」
教師が頬杖をついたまま、答案用紙を眺めて言う。
「なっ何が悪いのよっわかんなかったんだから仕方ないでしょっ!!」
柚季が少し教師側に身を乗り出して反抗の声をあげる。
「いーや、悪いな。大体、如月、お前他のテストあんだけ良い点採ったくせして、俺のだけコレってなによ?嫌がらせ?」
悪戯な表情を浮かべて教師は言う。
「たまたまでしょー、それにこーやって補習受けにきてんだからイィじゃなぃ。」
柚季は机に広げたノートに視線を落とし軽く流す。
至って普通の放課後の補習風景のようだが、これは柚季によって計画されたものである。
本当は、テストだって満点に近い点数を採れていたのに、今こうして補習を受けているのには理由があった…それは柚季の目の前にいる教師、須賀響一(スガキョウイチ)にある。
そう、柚季は恋をしていたのである。
教師と生徒というイケナイ恋を…いつ好きになったかなんて覚えていない、ただいつの日からか目が彼を追うようになってしまっていた。
須賀の見た目は、目立つ方ではない、いかにも"真面目"という感じで黒髪に眼鏡、ネクタイをきっちりと締めいる…が。
それに引き替え、言葉使いが多少悪い…それがかえって印象に残る原因かもしれない…。
『ぁ〜須賀がこんな近くに…ヤバイっヤバ過ぎ!!勉強どころじゃないってのぉ…ってか全部わかって……』
と、下を向きながら一人思いを巡らせ、ペンを握り締めていると。
「おい、如月…ノート真っ白だけど?やる気あんのはその右手だけか?」
と、ノートを覗き込みながら須賀が言う。
「ふぇっ?」
気の抜けた返事をしながら顔を上げると、須賀の顔が"どアップ"で現れた。
「うわぁぁぁぁ…須賀ぁぁぁ…?!!」
自分の世界に浸り過ぎていた柚季は、椅子ごと倒れそうなぐらいのけ反り、意味不明な台詞をはいた。
「…はぁ〜ぁ、さっきから俺しかいないんだけど。俺の言ったこと聞いてないし、しかも呼び捨てときた…」
深い溜息をつき、額に手を当てる。
「俺、熱出てるかも…。」
そのまま机に伏せる須賀。
「えっ?!大丈夫っ早く帰った方が良いんじゃ…」
と、のけ反った体を元に戻し心配する柚季。
腕の隙間からその姿を覗き見し"ぷっ"と吹きながら、「だぁーれのせいだっての!熱なんか出てねぇよ、でも如月のやる気がないから休憩タイム。」
と呆れ口調で、内ポケットから煙草を出し、1本くわえて窓際に歩み出した。
『ぁっウソか…休憩ね…って、えぇーっ須賀が煙草ぉ?!』
と、驚き顔で須賀を見ると向こうもこちらを見ていた。
どうやら"煙草ぉ?!"は声に出ていたらしい…
「あっもしかして煙りダメ?」
くわえた煙草が言葉と共に上下に揺れる。
「いいえ、全然。」
と、即座に左右に首を振る。
「じゃぁ〜よかった、吸いたくてたまんなかったんだよなぁ…」
と嬉しそうに笑って、窓の外を眺めながら、煙草に火を付けた。