嫉妬-12
郁美の白くて細い首筋に視線を移すと、鎖骨の窪みの横あたりに虫さされのような跡があり、それがキスマークと認識するまで時間はそうかからなかった。
私の固まった視線に気づいたのか、郁美はスウェットの襟元をグイッとあげてキスマークを隠す。
「あー、気付いちゃった? いくら制服で隠れるからってここだと目立つよね」
郁美は得意気に笑い、私の顔を見る。
なぜかやたら唇が乾き、私はやっと生唾を飲み込んで郁美から視線を逸らした。
「修ってね、人前では今日みたいに素っ気ないんだけど、エッチのときはスッゴい優しいの。でも、ちょっと強引なとこもあって、これつけられちゃった」
郁美はそう言って、スウェットの上からキスマークのあるあたりを愛おしそうになぞる。
―――オレは結構いい感じだと思うんだけど。修が自分からちょっかい出す女の子ってあんまり見たことなかったし。
―――修はもしかして桃子のこと好きかもって思うことがたびたびあるの。
以前、大山くんや沙織が言った言葉が不意に頭の中を掠める。
彼らの前ではそれを否定していたし、私自身も真に受けるほど能天気ではなかったけど、もしかしたらと期待していた部分は確かにあった。
でも、それはすべて私の思い上がりだったんだ。
―――まあ、コイツが乗り気なら俺はいつでも大歓迎でいるんだけどな。
土橋くんの意地悪そうに笑う顔がふと頭の中によぎると、私はたまらなく自分がみっともなく思えてきて、奥歯をギリッと噛み締めた。
「ね? あたしは修とうまく行ってるし、これを邪魔されたくないの」
郁美はとても穏やかで優しい声を私に投げかけ、スクッと立ち上がって私を見た。
私は震える手をグッと握りしめ、血が出そうなほど下唇を噛んだ。
湧き上がるのは土橋くんへの理不尽な怒りと郁美への嫉妬。
二人は付き合ってるんだし、そういうことをしても当然で、私が怒るのは見当違いなのは頭の中では理解しているつもりだ。
でも、“裏切られた”と被害者ぶった自分勝手で醜い感情は、郁美よりも土橋くんに対して次々と湧き上がってくる。
……嘘つき。好きでもないなら気なんか持たせないでよ。
握りしめた手を見つめていたが、徐々に視界がぼやけて、手の甲に温かい雫が落ちたのを感じた。
もう、どうでもいい。
私はスウッと流れる涙を、人差し指で静かに拭ってから、ゆっくり顔を上げて郁美を見た。
「……わかった。土橋くんとはもう関わり持たないから」
私の言葉に、郁美は安心したように大きく息をついて、いつもの可愛らしい笑顔を私に向けた。