嫉妬-11
「好きなんでしょ? 修のこと」
ニヤニヤした視線が私にぶつかる。
同じようなことを沙織や大山くんに何度か言われたことがあるけれど、あの二人とは違って郁美からは、悪意ともとれる黒い感情しか受け取れなかった。
「違う……ただの友達だよ……」
後ろめたさから語尾が弱々しくなる。
やり場のない視線は自分の足元を意味なく追っている。
せっかく自分の気持ちに気づいたのに、それを郁美に言うことはとてもできなかった。
すると郁美は、ベッドに座り込んでいた私の目の前にしゃがむと、そっと私の手を取った。
ひんやりとした彼女の乾いた手が、汗ばんだ私の手を優しく包む。
「よかったあ! 桃子が修のこと好きだったらどうしようって思ってたの」
いつもの調子に戻った郁美にホッとして、私はやっと彼女の顔をまっすぐ見つめられた。
「そんなことないよ、郁美考え過ぎ」
私はようやくぎこちなく笑い出した。
郁美もつられて可愛い声でクスクス笑っている。
……が、突然郁美は私の手をグッと握りしめた。
「ただの友達なら切れるでしょ? あたし、男友達全部切ったんだから」
そう言って、彼女は私を睨むように見た。
郁美の可愛い顔と声にそぐわない妙な威圧感に、私は再び全身に鳥肌が立った。
一言“うん”と言ってしまえばこの重圧から逃れられるはずなのに、どうしても言葉が出てこなかった。
理不尽な郁美の要求に対する苛立ちと、土橋くんと関わりがなくなることへの恐れが迷いとなって、私はただ黙り込んでいた。
視線があちこち泳ぎ、部屋の隅のハンガーラックにかけられた自分の制服、 本棚に綺麗に並んだ漫画の背表紙、白い壁紙についた小さなシミなどどうでもいい物ばかりがやたらと目につくばかり。
頭の中でも同じようなことが起こっていた。
郁美から答えを求められているのに、今日授業で習った日本史の内容や、夕食のときに流れていた海外の暴動のニュースのことなど、全然今の自分に関係ないことばかりが頭の中を占めていた。
きっと、頭も身体も郁美の言葉を聞きたくないんだ。
「桃子、人の話聞いてる?」
郁美がイラついたように冷たく言い放つ。
「でも……いきなりそんなこと言われても……」
友達でいることすら、ダメなの?
アイツの意地悪っぽく笑う顔が脳裏に過る。
土橋くんが好きなのは郁美なんだよ?
あたしなんか女とすら見られてないから、心配しなくていいんだよ?
だから、そんなこと言わないで。
ボーッと見つめていた壁のシミから郁美の方に向き直った私は、思わず目を見開いてしまった。