THANK YOU!!-2
『瑞稀!今帰りなの?』
『あ、エンディ。うん、そうだよ』
練習が終わり、8時を指している時間を確認した瑞稀は外に出たところで金管を担当している10歳程年上の先輩に声をかけられた。二人とも、門に向かって歩くので自然と並ぶ。混雑を嫌う瑞稀は、ほかの皆よりもワンテンポだけ帰る時間をずらしているのでそうそう仲間に会うことが無かったので少し驚いた。
『そういえば瑞稀。アナタ大分前よりトランペットの音が良くなったわね?』
『え?そう?そこまで実感は無いんだけど・・』
『絶対良くなったわ!日本に戻って、彼氏からプロポーズされたおかげかしらね?』
『ち、違うよ!!』
エンディはニヤケた表情で、瑞稀の腕をつついた。瑞稀は顔を赤くしながら全面否定した。
が、実は瑞稀も少しはそのことも気づいていた。何より、自分のトランペットの音だ。分からないことなんてない。大体、不調だった音を取り戻す為に日本へ一時帰国したのだ。もし拓斗とやり直すことが出来なければ今の、オーケストラでも才能を開花させた瑞稀はいない。そのことに、心から感謝をしていた。
『さて、どうかしら?・・・あら?』
二人が門に近づいたところで、そこで人でごった返しているのに気づく。
良く見たら、誰かを囲んでいるようだった。
『ねえ、何かあったの?』
エンディは、自分の近くにいた女性に聞いた。
その女性は興奮気味に言った。
『エンディ!聞いてよ!すっごく格好いい日本人いるのよ!』
「・・・え、日本人?」
聞こえた言葉を日本語訳した瑞稀は思わず日本語で驚きを漏らした。
そんな反応をした瑞稀が興味を持ったと勘違いしたエンディは瑞稀の腕を引っ張りながら前に前にと連れて行った。
『わっ・・ちょ、エンディ!ちょっと待って!』
『どうして?興味あるんでしょ?行きましょう!』
有無を言わさずに最前列まで瑞稀を引っ張ったエンディは丁度日本人の背中部分に立つ場所に出た。
一方、混雑が嫌いなのと早く帰りたい気持ちがある瑞稀は不服そうな顔をした。
「(・・早く帰って寝たいんだけどな・・。明日休みだし)」
『瑞稀!あの人よ!』
『えー・・もういいよ・・』
エンディは思わず興奮して瑞稀の肩を叩く。叩かれるのが嫌な瑞稀は顔を歪めつつエンディの指差す方を見やる。
確かに、日本人がいた。だが、どこかで見たことのある背中。
「・・っ!!」
思わず息を呑んだ瑞稀の方へ、エンディの声が反応したかのように日本人の青年が振り返った。そして、お互い目線を合わせてすぐに名を呼んだ。
「瑞稀!」
「拓斗!?」