16 ストシェーダ王都の朝-2
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カティヤが朝の訓練を終えたのと、ほぼ同時刻。
ストシェーダ王都で、エリアスとアレシュは馬車の窓から早朝の市街地を眺めていた。
「こちらに参るのは、久しぶりですね」
気楽に呟くエリアスの隣りで、アレシュはやや浮かない表情だ。
カティヤとの別れは、鋭く胸に突き刺さっているが、それだけが原因ではない。
「まぁ、さすがに書簡では済まない大事だからな」
相変わらずつかみ所のない側近の青年に、頷き返した。
生真面目なエリアスは、日頃から職務中は、いつでも王宮に参上できる文官服と銀色マントの正装だが、今日はアレシュも正装だった。
黒尽くめの服は相変わらずだが、金ふちの黒マントを追加して羽織っている。
マントの留め具はやはり金のブローチで、トカゲの紋章が刻まれていた。
城砦都市ゼノとストシェーダ王都は、魔法ゲートで結ばれ、馬で三日の距離も一瞬だ。
使用するにはそれなりの魔力を要するし、狭いので荷馬車などは運べない。
当然ながら厳しい検問もある。
だがアレシュなら顔パス。そもそも魔眼を使えば、ゲートすら必要ない。
……にもかかわらず、アレシュが王都を訪れるのは、滅多になかった。大抵の連絡は書簡で済ませてしまう。
今回は正式な訪問なので、仕方なくゲートを使い、王宮から迎えに来ていた馬車に乗っていた。
朝日の中、黒と金の魔眼に、生まれ育った城が映る。
ストシェーダ王都は全体の造りからも、神の箱庭と異名される、美しい都だが、王城の美しさは特に際立っている。
初めて見る者は皆、息を飲んで言葉を失う。
紺碧の尖塔をいくつも持ち、優雅な気品に満ちた白亜の城は、都の中心に建ち、広大な庭園と美しい水路に囲まれていた。
城の花壇も美しく手入れされ、城内を飾る花が絶える事はない。
特に有名なのは、四つの季節を一年中保つ、『四季の庭』だ。
四分割された庭は、それぞれの区画で春夏秋冬を行儀よく守り、どの季節の花や果物が欲しくても、そこに行けば手に入る。
「……」
視線を城から逸らし、自分を奮い立たせるよう、アレシュは頭を軽くふった。
緋色の髪が揺れ、飾られている黒と金の小さな魔石に、馬車の窓から差し込む美しい陽光が反射した。