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真紅の螺旋
【アクション その他小説】

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真紅の螺旋〜the crimson helix〜『歪曲夢想』-2

「で、用って何?」
愛加がいるのは絢の家。しかし、愛加の前に座る人物は絢ではなかった。
「ちょっと依頼が入ってな。私の代わりにやって欲しい」
愛加の前に座るのは一人の女性。名を燕条琴葉(えんじょうことは)という。絢の従姉妹であり、保護者代わりだ。廃ビルを買い取り、そこで『何でも屋』という風変わりな仕事をしている。
「言っておくが、お前に拒否権はないからな」
モデルも裸足で逃げ出すほどのルックスとスタイル。琴葉の鋭い視線が愛加を射抜く。
「……何の依頼?」
琴葉は答えず、窓際へと移動した。
このビルは三階建て。何でも屋の事務所である二階から外を見る。
「愛加、お前はヒーローを信じるか?」
琴葉の口から出たのは全く違う言葉だった。いつものことなので、愛加は黙って続きを聞く。
「お前はヒーローになりたいと思ったことがあるか?」
「私はそんなの信じないし、なりたいとも思わない」
「だったらどうして私達は子どもにヒーローなんて物を見せる。成長したらそんなものは嘘だったと思い知るだけなのに」
「知らない」
「そいつはまだ心が子どもなんだ」
「誰の?」
「最近起こっている殺人事件知ってるだろ?その犯人だ」
下らない話かと思い適当に聞いていた愛加は、琴葉の不意打ちに少なからず驚いてしまった。
最近街を賑わせる殺人事件。被害者は数百人に登る。犯人は主に不正を行う企業の社長や、麻薬密入者などの人間を狙って殺人を繰り返しているらしい。さらに、標的のマンションに侵入し、標的だけでなく住人までも殺してゆくという。
残虐極まりない事件。
愛加が事件について考えている間にも、琴葉の話は続く。

「……そいつはヒーローという存在を否定されることなく育ったんだろう。そして自分はヒーローになれると信じ続けた。
一種の自己暗示だな。魔術師達もよくやる自己暗示による身体能力の強化ってやつだ」
「でも、暗示ぐらいでそこまで変化はしないはずよ」
「当然誰かが手を加えたに決まってる」
まあ、そういうことだ。琴葉はそう言って、折り畳まれた一枚の紙を愛加に手渡した。
「何、これ」
広げてみると、それはこの街の地図だった。
「これは自動的に『探査』の魔術を行う。これを使って探すといい」
琴葉は魔術師だ。幼い頃イギリスの魔術学校へ入学し、現在は『大能力の六人(ヘキサグラム)』の一角を担っている。しかし、琴葉は自分の事を滅多に話さないので、愛加にもこれ以上の事はわからない。
愛加が出ようとすると、琴葉がその背中に声を掛けた。
「そいつは確実に境界から踏み出してる。つまりこっち側の人間だ。躊躇うな。お前の死を悲しむ奴が、少なくともそこに一人いる」
そう言って扉の向こうを指した。
愛加は琴葉に背を向けたままだったが、琴葉の指が誰を指しているのかはわかった。
愛加が廊下に出ると、予想通り絢が待っていた。
「今から行くの?」
「そのつもり」
「じゃあ、夕飯作って待っててあげる。捨てるのもったいないから、絶対に家に戻ってきてね」
約束。そう言って絢は小指を差し出す。
「わかってる」
愛加も小指を差し出し、絢の指に絡める。戦う前のいつものやり取り。
なんで絢は自分に優しくしてくれるのか。愛加はいつも不思議だった。以前それを尋ねたら「愛加は私の親友だもん。親友に優しくするのに理由なんていらないよ」と言われた。絢にとっては親友は愛加だけで、他の人間は普通の友達らしい。悪い気はしない。
「いってくる」
名残惜しげに指を解き、愛加はビルを出た。


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