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真紅の螺旋
【アクション その他小説】

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真紅の螺旋〜the crimson helix〜『歪曲夢想』-3

ひっそりと静まり返った夜の公園。男はそこに佇んでいた。
足下の赤い水溜まりが月を映し出している。
男の前には歪なオブジェがあった。それは手足を捻じ曲げられ、首が引きちぎられ、赤いペンキで着色された人間の死体。
男は恍惚の表情を浮かべ、ただそれに見入っていた。
アニメ柄の時計が九時を告げた。
ふと、人の気配を感じ、男は振り向き、感じた。こいつは危険だ、と。
「フフフ。ボスの登場か。いいだろう。この千田利明が相手になってやる」
男──千田利明(ちだとしあき)は素早く構えをとった。その濁った瞳に映るのは狂気。
彼の前には一人の少女。
彼女の前には血に染まった男と多くの死体。
異様な光景を気にすることなく少女は言った。
「さあ、始めましょう」
少女──閑夜愛加はゆっくりと一歩を踏み出した。同時に愛加の瞳が色を変える。
真紅。
深い黒から鮮やかな紅へ。闇の中で紅く輝く人外の瞳。
愛加はゆっくりと距離を詰めてゆく。

空には歪に欠けた月が浮かぶのみ。
『常人』という名の境界から外れた者達の戦いが始まる。



「があああぁぁっ」
獣じみた奇声を上げ、千田は愛加に接近する。スピードはまさに獣のそれ。二十メートルの距離をあっという間にゼロと変え、千田は愛加に肉薄する。
千田の拳が霞んだ。
数多の人間を屠ったこの一撃を、愛加は軽く上体を捻るだけでかわした。
「なっ……に?」
千田の顔に驚きが浮かぶ。
慌てて距離を離し、再びの速攻。フェイントを掛けつつ愛加の顔面に拳を放つ。
愛加は五分の見切りでそれを避け、風を切る音を耳元で感じる。千田の速さは想像以上だ。再び繰り出される拳をいなし、空いた胸元に蹴りを叩き込む。
女子高生とは思えない力。愛加の足は千田の肋骨を数本へし折り、放物線さえ描かせずに吹き飛ばした。
「ぐっ……はぁ」
折れた肋骨が肺に刺さったのか、千田の息遣いが荒い。痛みを訴える体に鞭打ち、千田はよろけながらも立ち上がる。
追撃はない。愛加は先程と同じ場所に立ち、千田を見ている。千田は無理矢理呼吸を整え、コートのポケットからナイフを取り出した。
ナイフの刀身が鈍く光る。
三度目の疾走。千田の凄まじい踏み込みに地面が捲れ、土が舞い上がる。
愛加も動く。千田とは対照的な静かな疾走。二人は一瞬にして肉薄した。
「ふんっ」
渾身の力を込めた一撃が、愛加の首を狙う。
右上段からのその攻撃を右手で受け止め、左の掌底で千田の顎を打ち抜く。人外の力は千田の顎を砕き、衝撃で千田の体が一瞬地面から浮き上がる。
愛加の攻撃は止まらない。脳へ直接衝撃を与えられ、思うように動けない千田からナイフを奪い、千田の胸を切り裂く。
千田の胸元に紅蓮の花が咲いた。
愛加の持つ人外の眼の名は『赤朱の魔眼』。その眼は主の身体能力を強化し、本来ならば、魔術師にしか操ることができない炎を自在に操ることを可能にする。
胸元の炎が徐々に千田の体を包んでゆく。


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