オナニー研究会-1
僕がオナニー研究会、通称『オナ研』に入ったのは、高校１年の春だった。
僕はアマチュア落語家の叔父さんの影響を受けて『落語』に』興味を持っていた。趣味としてお金がかからないし、一人で何役もできるし、編集も自在だし、なんと言っても人生に笑いがあるというのは楽しい。僕はどちらかというと生真面目な方だから向いていると思った。
それで僕は高校にも落語研究会がないかと入学してから校内を探し回った。
ところがあるときとっても素敵な上級生のお姉さん達が３人向こうから歩いて来た。３人歩いてくれば普通はブスとナミと美形が適当にブレンドされているのが普通だが、３人とも美形なんで僕は思わず見とれてしまった。つまり立ち止まって視線を３人にロックオンしてしまったのだ。もしかすると口を開けて涎を垂らしていたかもしれない！
３人は僕を見ると顔を見合わせた。そしてなにやら意味ありげな笑顔をお互い交わすと、そのまま通り過ぎた……というのが普通の流れだが、ちっちっ……近づいて来たんだ。
そのお姉さん達は僕を囲むように全身をじろじろ見始めたんだ。そして三つ編みの目が大きくて色白の人が僕に囁くように話しかけた。
「１年生？ まだどのクラブにも入ってないでしょう？」
「は……はい」
「秘密守れる？ 私たちこういうことやってるの」
僕はお姉さんが差し出す名刺をちらっと見た。僕はそこに『オチ研』と書いてあったような気がした。僕は目を輝かしてそのお姉さんに言った。
「あっ、僕は入りたいです。捜していたんです」
「しーっ、声が大きいわ」
お姉さんは周囲を見回して僕を美しい瞳で睨んだんだ。僕はどきんとした。ああ、こんな美しいお姉さんに怒られるなんて、毎日でも良いなって。
で僕はわかったんだ。美人と落語はそぐわないイメージがあるから、きっとこの人たちは落語をやっているのを他人に知られたくないのだろうって……。
「ご……ごめんなさい。あまり嬉しかったものだから」
「珍しいわね。私たちの研究会のこと知ってるなんて……」
「ええ、確かに高校には滅多にないですから、でも大学には結構あるらしいです」
するとお姉さん達は美しい顔を見交わし驚きの表情を見せた。
「大学にはあるんだ？ 私たち意外に知らなかったね」
そう言ったのはショートカットの黒目勝ちなお姉さんだった。
「君はどうしてこの研究会に入りたかったの？」
僕は『来た』と思った。この先輩たちはごく自然な会話の形で口頭面接をしているんだ。
「そうですね、趣味にも沢山ありますけれど、球技とかだと場所や仲間がいないとできないし、他のものでも道具を揃えたりするのにお金がかかります。でもこれは一人で練習できますし、道具も何もいりません。まあ、座布団１枚あればできますからね」
「ざ……座布団？」
驚いたのはさらさらロングヘアーの前髪が簾のようになった、切れ長の目の日本人形のような顔だちのお姉さんだった。
「座布団を使うって……わかるようで……ちょっとイメージが」
「あっ、もちろんいりませんよ。なくてもできますから。必要なのは想像力です。そこが僕は気に入っているんです」
すると３人はほっと安心したように顔を見合わせた。そして最初の目の大きなお姉さんが言った。
「想像力って聞いて安心したわ。私たちの目指しているところもそこなんですから。それに基本的に一人でというのも原則だと思うの。２人でとかそうなったら邪道になると思うし」
僕はお姉さん達が今流行の漫才やコントのことを言ってるなと思った。そうなれば落語でなくなるから、当たり前だ。
「そうですね。１人で十分練習してから仲間の前で披露するのでなければ失礼だと思うし」
「「「えっ？」」」
３人が一斉に顔を赤らめてお互いを見交わした。僕はまさかと思った。
「先輩たち、もしかしていつも一人でやっていて、仲間の前で見せたことがないんですか？」
３人は頭をコクンコクンと上下に動かした。