契約A-12
明らかな矛盾……。
「だからぁ、うちは特別なんや。催淫術も、勿論呪殺術も使えるねんっ」
凄いやろ? 凄いやろ? と威張り散らすクランを修一は生暖かい眼差しで見ていた。
「でも、何でクランは特別なんだ?」
「んとな、天使のときにめっちゃ凄い成績のこしたんちゃうかーってミルルが言うとった」
「ミルルが? お前は心当たりないのか?」
「…………うん」
クランは声のトーンを落とし、その場に座り込む。
「うち、ここで起こされるまでの記憶がないんや」
「えっ!?」
急に明かされたクランの状態……記憶喪失。
「じゃあ、ミルルが……妹ってことも……」
「うん……」
急に広がり始めた重い空気に二人はどんどん呑まれていく。
「ほら、修一がお札剥がしてからうちが出てくるまで時間あったやろ? その間、ミルルに色々教えてもーとってん」
「そうか……」
それだけ親身になってくれたのなら突然妹と言われても信じるのだろうか。
だが、ミルルが嘘を吐く必要性が感じられないため、修一は特に疑うことはなかった。
「んでな? 修一……」
クランは低いトーンのまま呼び掛け、右手を差し出した。
「手ぇ握ってくれへん?」
「え!?」
何の脈絡もない突然の要求に修一は戸惑った。
しかしそれを呑むことで少しでもクランの心情を汲むことが出来るなら……と、彼は右手を伸ばしたのだった。
「ん……」
しっかりとした握力の後、クランの漆黒の瞳が滲むように紅蓮を帯び始める。
それは彼女の体にも見られ、赤黒い光のベールは右手からじわじわと修一にも広がっていった。
そして、肌の中へ溶けるように消えていったのだった。
「ありがと」
手を離したクランは、次に修一の顔を覗き込む。
「え? 何?」
少し照れくささを感じる彼を余所に、クランは穴が空くほどじーっと修一を見つめていた。
しかし
「あかんわ」
と居直ったかと思うと、肩を竦めてみせる。
「は? 何が?」
修一にとってはあまりいい気分ではない。
「今、契約作業としてうちの力を分けてんけど、修一の寿命が見えん」
「そうか……って、今何つった!?」
修一は慌てて立ち上がる。
「普通、そういうことは断ってからするだろっ」