契約A-10
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天魔界。
そこは現世との間に大きな空間の歪みを隔てている、天魔族が住む世界である。
地球に例えて言うならば、北半球にあたる天界に天族が、南半球にあたる魔界に魔族が住んでいる。
天族とはつまり天使のことで、現世で亡くなった魂は天使として天界へ逝くことになる。
その際、記憶の抹消が行われ、魂は全く無知な状態で天魔界に誕生するのだ。
天使は幾分かの学習を終えると現世へ行けるようになり、そこで仕事を行う。
天使の仕事はずばり、現世の魂の善の精神を刺激することだ。
例えば、簡単な魔力を用いてポケットの財布を落としたりする。
そうすることで、それを発見した人間の善の精神を引き出す機会を作るのだ。
因みに天使の正装は、色は違えど魔族とあまり変わらない。
ただし背中に生えているのは半透明の蝶々のような羽で、尻尾はなく、手には先端に星型の飾りが付いた棒を持っている。
ある程度の実績を積んだ天族は、魔族に就職出来るようになる。
悪魔、淫魔、夢魔から一つを選び、次はその職業に見合った仕事をして実績を積むのだ。
魔族にはそれぞれの職業でしか使えない技があり、それを駆使して仕事を行うことになる。
夢魔しか使えないのは幻影術と呼ばれる技だ。
コネクトスペースから現世の魂に向かって幻影術を使うと脳内に働き、幻影を見せることが出来る。
主に睡眠中、幻影術で夢を操作することで快眠を与えるのが夢魔の仕事だ。
時には夢の中にリンクし、そこで幻影術を使うこともある。
また、夢魔は悪夢を食べることで魔力を回復することが可能なのである。
淫魔が使えるのは催淫術だ。
コネクトスペースから現世の魂へ催淫術を使うことにより、性行意欲を促したり、花粉の生成を促したりするのである。
そうすることで新た生命の誕生機会を増やすのだ。
淫魔の場合は精液、または花粉を体内に取り入れることで魔力の回復が出来る。
因みに天魔界には異性という概念がないため、女の姿をしてはいるが雌の生物にも催淫術は有効だ。
そして悪魔。
悪魔が使えるのは、呪殺術。
コネクトスペースから現世の魂へ術を使うことにより、死に至らしめることが出来るのである。
ただしこの術は簡単には使えない。