秒針-1
コチコチコチコチ…
助けて助けてと、アナタに憑いてます。
ええ、女性です。
身に覚えがありませんか?そうですか。
コチコチコチコチ…
まだ見えませんか?
いえ、特殊か特殊でないかの話ではございません。見えなければおかしいのです。
コチコチコチコチ…
どうぞお茶でも。
おやおや、そんな震えて。大丈夫ですよ。見えれば全てが解決しますから。
コチコチコチコチ…
もう…十二時を回りましたねぇ。
はい?彼女の姿形ですか?
長い黒髪が乱れております。長さは腰ほどもありましょうか。
顔?そうですね、とても無念そうです。ほら、肩越しを御覧なさい。見えるでしょう?ええ、すぐ右ですよ。見えませんか?…睨んでますよ。あなたを。じぃっと。瞬きもしません。ほら、これでもかというくらいに眼球を剥き出しにしておりますでしょう?血管まで浮き出るほどに。
いえいえ、意地悪ではございません。本当に見えないので御座いますか?
これでは落ちませんね。
コチコチコチコチ…
服装ですか?
青い、上下に繋がった服を着ております。…ほう、ワンピースというのですか。そうですか。
スカート?…ああ、そうです。足元がひらひらしたもので御座います。
どうしました?何か思い出しましたか?
コチコチコチコチ…
ああ、駄目です。そんなに暴れても居なくなりません。そういう《モノ》では無いのです。
コチコチコチコチ…
見えましたか?…まだですか。そうですか。
コチコチコチコチ…
聴きませぬ。あなたが犯した過ちを私が聴いたら私に憑きます。
いいえ、聴きませぬ。お止めなさい。
コチコチコチコチ…
違います。
私は坊主ではありません。心配なさらずとも本物です。
コチコチ…
見えましたか?
そうですか。それは良かった。解決しましたね。おめでとうございます。
これからどうされますか?
…そうですか。
コチコチ…
はい。この世の境界はここまでで御座います。
…何故?
睨まないで下さい。恐ろしい。
どこへ行かれるのですか?そちらは違います。
コチコチコチ…
ああ、行ってしまわれた。申し訳御座いません。
手は尽くしたのですが、俗世への未練を断ち切れなかったようで御座います。
そこで覗かれていたでしょう?…はい、分かっておりました。
見たのでしょう?
あなたも。
見えなかった?
それなら大丈夫です。
今宵そちらへ参るでしょう。
了