私は死神だから-1
この人間の雌、名前を深町恵里佳という。
22歳。
この恵里佳という雌は、明日死ぬ。
突然心臓が止まる病気で死ぬ。
私は死神だから。
それが分かる。
半年前からこの雌に憑いているが、何の為にそんな前から憑いてるか…よく分からない。でもそれが決まりだから。
仕方ない。
因みに人間には私の姿が見えない。
外見は人間とそっくりだ。私の外見は人間の雄に近い。
「ふう」
恵里佳が一息ついてテレビを消し、天井を眺める。
私はただ横で彼女の顔を眺めているだけ。
「そろそろな感じ」
恵里佳が独り言を呟く。
私はただ、恵里佳の顔を眺めているだけ。
「ねぇ、私そろそろ死ぬんでしょ?」
恵里佳は私に顔を向けてそう言った。
私は私に言ってるとは思わなかったから後ろを振り向くが…やはり誰もいない。
「あんたよ、あ・ん・た」
恵里佳は明らかに私の顔を指差してそう言う。
見えるはずが無い。
私は黙っている。喋ってもどうせ聞こえないのだけれど…。
「何不思議そうな顔してんのよ。あんた喋れないの?」
恵里佳は顔を寄せてきてそう言うと、ジッと私に目を合わせる。
見えて、いる。
「あんた、死神じゃないの?」
「…見えるのか?」
「見えるわよ、ハッキリね」
「声まで聞こえるのか?」
「はぁ?当たり前でしょ」
何が当たり前か分からない。
が、どうやら見えるし聞こえるらしい。
「ね、私いつ死ぬの?」
「言えない」
「あっそ…」
恵里佳は体の後ろへ両手を床につき、また天井に顔を向ける。
「何で?」
「…決まりだから」
「そ」
恵里佳は天井を向いたまま。
目から水が零れてる。
それが綺麗に見える。
「半年間」
「…」
「お疲れ様」
恵里佳はそう言い、私に顔を向けて、笑った。
白い歯が綺麗。
「…恐くない?」
私の問いに、恵里佳は答えず。
また天井を向く。
時計の音だけが。
部屋に響き。
もうすぐ明日になる。
何時に死ぬかは分からない。0時かもしれない。今、23時57分。
「多分0時だよ」
恵里佳はそう言う。
この雌には分かるんだろう。
「そうか」
「キスして」
「は?」
「いいから」
私は仕方無く、口を付ける。
恵里佳はまた目から水を流す。
恵里佳は私の胸の中で死んだ。
笑顔のまま。
死んだ。
私は恵里佳の亡骸を抱きしめた。
何故か分からない。
そして私も。
目から水を零した。
零したんだ。
了