風呂場-1
「お風呂は危ないの」
栞は興奮しながら語る。
「順番を間違えるからそうなるの」
「聞いたこともないよ」
素っ気なく私は答えた。
「友梨だって感じるでしょ?」
「感じるって言ってもそういうのは大抵勘違いじゃない」
ひらひらと手を振り真っ向から否定する。
「友梨、真面目に聞いてよ」
「知らな〜い。バイバ〜イ」
「ちょ、友梨〜」
私は踵を返して栞と別れた。
お風呂場でよくある妄想の世界。髪を洗っている時、背後に感じる何かしらの気配。
アレは何なのか。
栞はそういう話をクラスメイト達と話していた。「たまたま運が良かったから気配で済んでる」だの「順番を大きく間違えたら終わり」だの…。
勿論私はつまらなそうに傍観していたのだけれど…。
そもそも幽霊だの何だのは個人の妄想でしかない。馬鹿馬鹿しい。
私は帰宅して着替えるとベッドにうつ伏せた。
時間が夜の七時を指す頃、母に起こされて夕飯を食べる。
食後は軽く食休みをし、そのままお風呂場へ向かった。衣服を脱ぎ、洗濯機へ放り込み浴室へ入る。
――順番を間違えるからそうなるの――
栞の言葉が頭に浮かんだ。馬鹿馬鹿しい。
蛇口を捻り、シャワーが身体を打つ。
何の…順番だ?
少し気になった。気にする事でも無い筈なのに…。
お風呂へ入る為の順番?脱衣の順番?身体を洗う順番?
――たまたま運が良かったから気配で済んでる――
――順番を大きく間違えたら終わり――
頭にこびりつく言葉達。
私は洗顔フォーム出そうとすると、生憎切れていた。
仕方無く私は扉を開けて、洗面所の棚へ向かい洗顔フォームのストックを取って、浴室へ戻る。
――順番を間違えるからそうなるの――
ぞくりとした。
必死に懸念を振り払い、私は…。
ゴボゴボと水泡が破裂する音が浴槽から聞こえた。蓋は閉じているので中は分からない。
開けてはいけないと本能が信号を送る。
居るわけないと理性が抗う。
蓋を開けては…。
ぴちゃり
肩に水滴が落ちる。
ゴボゴボとした音はいつの間にか消えている。
ぴちゃり
背中に水滴が滴る。
振り向いてはいけない。
分かる。
気配が
悲鳴を
違う、間に合わ
誰か
栞
私は振り返っ
了