13 十七年の重み-3
もし不遇なだけの十七年間をカティヤが過ごしていたら、すぐさま連れ帰り、アレシュが幸せを与えられ、それで収まっただろう。
だが、カティヤは幸せを自分で掴んでいる。
この十七年間にジェラッドで培った家族や仲間、騎士としての生きがい。
アレシュの元では保てない幸せ。
それでも認めたくなくて、何をしてでも引き止めようと思っていた。
本当に、ついさっきまで、そうするつもりだったのに……引き裂かれる狭間で苦しむカティヤの表情に加え、ギリギリでアレシュの理性を保ったのは、亡父への苦い想いだった。
周囲の迷惑をかえりみず、子ども達の人生を狂わせてまで、自分勝手な執着を愛と呼んだ男。
自分のエゴのために、カティヤに犠牲を強いたら、あの男と同じではないか。
(エリアスに愛想をつかされかけたわけだな……)
ようやく理解し、内心で苦笑した。
カティヤの事で、一見アレシュに味方しているようながら、実はひどく怒っていたのに気付いていた。
この過ちに気付かなければ、きっとエリアスは本当に去ってしまっただろう。
そしてまた、アレシュが全てを捨ててカティヤの元に行く事も、不可能だった。
アレシュのために未来を断たれた兄は、個人的な思い以上に、ストシェーダ王として許さないだろう。
許すわけにはいかないのだ。
王家の人間は国のために生きるのが当然であり、それを犯した結果が悲劇を招く。
それをよく身に滲みている。
だからアレシュは、こう言うしかなかった。
「明日の昼には魔力も回復する。ジェラッド王都まで、飛竜や団長ともども、お送りしよう」