相談事-2
先輩は早くも一缶空けると満面の笑みで私に顔を向ける。
「それにしても瑞穂ちゃん!可愛くなったね!」
「恋してますから」
にっこりと微笑んで答える。
「康平も弱々しいとこあるけど優しさ溢れんばかりの良い男だかんなぁ!」
「…そう、ですね」
そう、康平の誰にでも平等に与えるその優しさに私は惚れた。でも、その優しさに傷つけられる人間もいるってことを、彼は理解してない。
優しさはズルさでもある。そこに打算的なものがあろうが無かろうが、優しさは時に薬にも毒にもなりうるものだ。
そう、伝えたこともある。康平は何だかキョトンとした顔をしていたけれど…。
「んで、そんな恋して絶好調な瑞穂ちゃんがわざわざ自分家まで呼んで俺に相談って何かね?」
先輩のにやけ面が何だかムカついた。
「先輩って、何人の人とエッチしました?」
「は?」
当然と言えば当然の返しである。
昼間っから飲酒をたしなめた女が昼間っから下ネタを振るのだから。
私は多分今、真っ赤な顔だろうと思う。
「…ははーん、そういうあれか」
訳知り顔で先輩はそう言うと、空になった缶を持って最後の一滴を口に垂らした。
「ビール、おかわりあるかな?」
「あ、あります」
「君も呑めよ」
「いえ、私は…」
「いいから。言い訳にもなる」
何を言ってるのかよく分からなかったけど、私はビール缶を二つ持って先輩の元へと戻る。
「こっち座んなよ」
先輩の対面に座る私にそう言って、己が座るソファーをポンポンと叩く。
「はぁ」
私も特に断る理由が見つからないので先輩
隣に腰掛けた。
「まず乾杯」
「乾杯」
缶を軽くぶつけあって乾杯をすると、私は久し振りにアルコールを摂取した。
「旨いよな」
「まぁ、まずくはないです」
「素直じゃないな」
「本当です。それよりさっきの」
「ああ、えっと…何人だっけな」
「そんな数えられないくらいしてるんですか?」
「いや、思い出せば数えられるけど」
「そういう問題じゃないですよ。不潔です」
「そうかなぁ?」
そんな話の最中に気付いた。
先輩の手が私の腰に回されている。
「あの」
「思い出した、多分55人だね」
「55人!?」
「うん、確かそう」
言いながら先輩の手は私の腰や背中をいやらしく撫で回す。
「先輩?」
「ん?」
「あの、ちょっとそういうのはやめてくれませんか?」
「ただのマッサージだよ」
先輩が尾骨の辺りを親指でぐっと押してきて私は背中が伸びる。
「んっ」
「おっと、色っぽい声が聞こえたぞ?」
「先輩!」
私は先輩の手を取り体を向ける。
抗議の声を上げるつもりだった。
酔っぱらいに厳しく意見するつもりだった。
先輩の顔が近くにあって
私の唇に吸い寄せられるように
先輩の唇が私の唇へとーー