元カノ-8
それでも、会話はいつしか途切れがちになり、お互い沈黙が目立つようになってきた。
何か話さないと……!
一生懸命頭をフル回転させたけど、それを遮るように土橋くんは小さく息を吐いてから、
『……石澤』
と、やや緊張したような口ぶりで私を呼んだ。
覚悟なのか、なんなのか、私は咄嗟にガバッと起き上がり、姿勢を正してベッドに座り直す。
心臓がバクバクして、お腹がキリキリと痛み始める。
私はうっすら額にかいた汗を手の甲で拭ってから、奥歯をギリッと噛んで彼の次の言葉を待った。
そして少しの沈黙があってから。
『……俺さ、郁美とやり直すことにしたから』
彼の言葉が耳に入ると、途端に目の前が真っ白になり、膝から力が抜けていった。
落としそうになった携帯を慌てて持ち直し、再び耳にくっつける。
『一応お前には報告しとこうと思って電話したんだ。さんざん振り回したけど、今度は真面目に郁美と向き合っていくよ』
「…………」
乾いた唇が震えてうまく言葉を出せない。
何か、何か言わないと。
私はギュッと強く目を閉じて咳払いをしてから、
「よかったじゃん! 郁美みたいな可愛い娘、なかなか付き合えないよ。今度こそ大事にしてよね!」
と、やっと声を振り絞って明るい声を出した。
『……そうだな』
少しトーンが下がったような声に聞こえたけれど、土橋くんの心の内を知る術は私には無い。
その後はどのように電話を終えたのかはほとんど覚えてなくて。
気付けば土橋くんが、
『じゃあ、また明日な』
と挨拶をした所で、何がなんだかわからないままに電話は終わっていた。
シンと静まり返った部屋で、放心したように身体をベッドに投げ出した。
―――郁美とやり直すことにしたから。
その言葉がやけにはっきり耳に残っている。
やり直すつもりはないと言った土橋くんの横顔を思い出すと、無性に苛立ってきた私は、思わず携帯を床に叩きつけた。
嘘つき。
携帯は電池カバーが外れて中の電池が勢いよく飛び出したが、私はそれに目もくれず枕に顔をうずめた。
嘘つき嘘つき嘘つき。
彼は何も悪くないのに、そんな言葉が頭を埋め尽くす。
目の奥が痛い。
知らず知らずのうちににじみ出てきた涙が、水色のピローケースに濃いシミを点々とつけていた。