元カノ-6
その夜。
カラオケでたくさん歌ってお腹は空いているはずなのに、なぜか夕食は全然喉が通らなかった。
さっきまではあんなに一人になることが嫌だったのに、家に着いた途端にとにかく一人になりたくなり、ご飯を半分以上残すとサッサと自分の部屋に閉じこもった。
ベッドに倒れ込むように横になると、一気に不安と焦燥感に襲われるような気になって、私はまるでそれらから身を守るようにガバッと毛布にくるまる。
何をそんなに怯えているんだろう、私は。
何度か寝返りを打っては、ため息ばかりが口から出る。
今日見た土橋くんと郁美の肩を並べて歩く後ろ姿が脳裏に浮かんでは、それを打ち消すようにいつもの私をからかうアイツのいたずらっぽく笑う顔が浮かぶ。
不安な気持ちは私につきまとっているのに、なぜかアイツの笑顔や、以前私に“郁美とやり直すつもりはない”と言ったアイツの言葉を思い出しては、それが一筋の光のように輝いていた。
元々、私は郁美がヨリを戻すためのきっかけを作ろうとしていたはずなのに、いざこうして土橋くんと郁美が一緒にいるところを目の当たりにしたら、その場から逃げ出したくなった。
どうしてかな。
郁美の友達なら応援するべきなのに。
頭ではわかっているのに、二人がやり直すことを考えると、どうしようもなく怖くなって。
なぜそう思うのか、答えはきっと自分でもわかっている。
だけどそれを認めたくない私は、最後の悪あがきをして、それから逃げるようにくるりと寝返っては壁側の方を向き、ギュッと目を閉じた。
その時、静まり返った部屋に気の抜けたメロディーが鳴り響いた。
今の気分にそぐわない、やたら脳天気な着メロは私を一瞬にして現実に連れ戻す。
私はムックリ起き上がって、ベッドのすぐ横にある小さなガラステーブルの上を見た。
古ぼけた白い携帯のランプが緑色に光りながら震えている。
ゆっくり手を伸ばして携帯を取り、画面を開くと私は小さく目を見開いた。
携帯に表示されていたのは、登録されていない番号。
でも、その電話の主が誰であるのかほぼわかっていた私は、ドキドキと高鳴る胸を押さえ咳払いをしてから、なるべく普段通りの声で電話に出た。
「……はい」
『……よう』
予想が確信に変わると、一層鼓動が速くなったような気がした。
手は汗がジワッとにじみ、背中はなぜかピンと張ってくる。
「土橋くん……」
『今、電話大丈夫か?』
「……うん」
平静を装っているつもりでも、彼の声が聞こえてくると、言葉が詰まりそうになる。
以前、彼に間違えて郁美の電話番号ではなく、私の電話番号を伝えてしまったとき、“いらなかったら消しといて”と言ったのに、彼は消さずにいてくれたのだ。
電話越しに低い声が聞こえてくると、なぜか目の奥がツンと痛くなった。