グッド・モーニング-7
「そ、そんな。知らない男と、セックスするなんて……」
「でも、お前にとってはセックスなんて普通のことなんだろう?」
「そうだけど、でも」
「しかも、ヤッてないと、可哀想ときた。何が、可哀想なんだ?」
「だ、だって……」
「言ってみろよ」
「とても、気持ちのいいこと、だから……縁がないなら、可哀想だと思って」
「ああ、確かに縁がなかったのは、その通りだよ。そして、今こうして縁が出来そうだ」
「ああ……許して」
「何でだよ? お前、セックス、気持ちいいから好きなんだろう?」
「き 嫌いじゃ、ないわ。でも、あなたと今、こんな場所でなんて」
「お前がこんな場所に俺を連れてきたんだろうが! しかも、冤罪でだ!」
「わ、わかったわ……セックス以外だったら、あなたの言うことを聞くから、それで堪忍して」
男性はほんの少し口の端を釣り上げて、下卑た表情で笑った。
ようやく掴まれていた髪の毛を離されて開放されたわたしは、哀れっぽくその場にしゃがみ込んで見せた。
黒のタイトスカートから、わたしの足が太ももから足首まで伸びている。
足には自信があった。ずっと、鍛えていた部位だからだ。
鍛えに鍛えて余分な肉が削げて細かった足は、陸上を引退して数年経ち、薄っすらと脂肪がついて女らしいものとなった。
男からはよく褒められたから、今でもジョギングをして、手入れには余念が無い。
その自慢の部分を、男性の目に晒した。
男性の喉が、ゴクリと動くのが見えた。
「ほう……セックス以外なら何でもねぇ。本当だな?」
「え、ええ……本当よ」
「じゃあ、まずは裸になってもらおうか」
男性が、努めて冷静を装った風にわたしに命じた。
わたしが逃げてしまわないようにしたいのだろう。
そんなことをしなくても、逃げたりはしないのに。
そればかりか、早く裸を晒して見せつけたかった。それで男が興奮するさまが、最高の前菜になるのだ。
でも、すぐさま脱いでは興が削がれてしまう。スーツをゆっくり脱いだ。
白いシャツに指をかけ、少しづつ時間をかけてボタンを外していく。
男性は石像にでもなったかのように、息を殺してわたしの脱衣の様子を見つめている。
この男性一人の為だけの、ストリップショーだ。
シャツをスルリと脱ぐと、少々地味なベージュのブラが顕になった。
こういう生活感のある下着も、男性にとって受けは悪くない。
まして、恋人と記念日にセックスをやる訳でもないのだから。
あくまで通勤途中だったし、この方が”素の女”の感じが出て、相手を昂ぶらせやすいのだ。
もっとも、わたしの場合は休暇をとっているので、通勤途中のフリなのだが。