無謀な計画-5
何もない虚空に、視線を彷徨わせる。
全てを捨てて逃げたい。
当然、佐伯との関係を続けるつもりもなかった。
まだ若く、綺麗でいられるうちは可愛がってもらえるだろう。
でも、それに胡坐をかいていれば、いずれ捨てられてしまうのは明白だった。
みじめな思いなどしたくない。
それならば、これまでの過去を全て捨て、金だけを持って母親の治療に専念し、縁があれば普通の男と別天地で結ばれたい。
汚れた過去の関係など、この後のマヤにとっては邪魔でしかないのだ。
寂しさとも、罪悪感ともつかないものが、心に重くのしかかる。
仕方なく、その場しのぎの嘘をつく。
「まさか……パパだけは、特別よ。落ち着いたら……また、必ず連絡するわ」
「そうか。まあ……とりあえず、マヤの望みが叶えられるように祈っているよ。協力できることは、させてもらう」
温かな声に、心が痺れる。
佐伯の妻に対して、がらにもない嫉妬心さえ抱いてしまう。
「ねえ、月曜日……全部、無事に終わったらパパに連絡するわ。お礼に美味しいものでもごちそうする。もしも、夜になっても連絡が無かったら……失敗したんだと思ってあきらめて」
「おいおい、気弱なことを言うなよ。心配になるじゃないか……そうだ、マヤ。これをあげよう」
佐伯が体を離し、バッグの中から何かを取り出した。
赤い布にくるまれた、ストラップ型の小さなお守り。
真ん中が縦に白抜きになっており、そこに『満願成就』と書かれている。
「メールをもらったときから、なんとなくマヤが特別なことをしようとしていると感じたんだ……古臭いと思われるかもしれないが、受け取ってくれるかい?」
「パパ……! ありがとう……」
演技ではない涙が、頬を伝う。
心づかいが嬉しかった。
嘘つきで、他人を踏み台にして逃げようとしている自分。
それなのに、こんなに思ってくれるひとがいる。
「さあ、おいで。話はこれで終わりなんだろう? あとはゆっくり楽しもうじゃないか」
「うん……」
佐伯がマヤの肩を抱き、ベッドに誘う。
わずかに身に着けていた洋服も下着も、全て脱ぎ捨てる。
ベッドに横になった瞬間、仰向けの姿勢で両足を大きく広げられた。