揺り椅子-5
「アースのあの慌てた顔……」
キャラは思い出し笑いをして肩を震わす。
「くっそぅ……これ、一生言われんだろうな……」
アースは苦笑してランスロットの頬っぺたを指でつついた。
「……ねぇ……」
「ん?」
嬉しそうにラインハルトを弄るアースを見ながら、キャラは小さく話し出す。
「何でオレらには出来ねぇんだろ?」
アースもキャラも子供は望んでいる。
結婚してから避妊はしてないし、ヤル事も……多分、人より多くヤッている筈だ。
キャラの月のモノも順調な方だし、気になったアースが医者に頼んで男の機能を調べてもらったが問題無し。
なのに出来ないと、何となくヘコむ。
「そうだなぁ……俺が魔獣ハーフなのもあるかもな」
アースは遺伝子レベルで魔獣が混ざっている。
そうなると異種間交配になるので、妊娠はしにくい……と考えられる。
アースはそう言ったが、自分に原因があるんじゃないかとキャラは考えていた。
肉体的にではなく、精神的に。
多分、怖いのだ……自分が変わってしまうのが。
やっと手に入れた自由と幸せを、もう少し噛みしめていたいのかもしれない。
更に今回のステラを見て心底ビビっているのも事実……精神的なものが身体に影響しやすいキャラにとって、これは致命的と言って良いかもしれない。
だが、こうやって赤ちゃん相手にデレるアースを見ると、何だが申し訳なくなる。
アースはキャラが思っている以上に家族を欲しがっている筈だ。
自分の血を分けた家族……本当の家族を願っている。
「まあ、ゆっくりで良いだろ?出来なかったらそれはそれでお前を独り占め出来るワケだし?」
アースはキャラに顔を寄せて頬に唇を当てた。
アースがそう言ってくれるならキャラとしては気が楽になる。
キャラはクスクス笑って顔を動かし、その唇に自分の唇を軽く合わせた。
「所でさ。街に行かねぇか?」
「街に?」
「ああ、ケイのとこに面白いのが居るらしい」
「へぇ……じゃあランスを返してこなきゃ」
アースはキャラの腕からランスを受け取り、彼女の手を取って揺り椅子から立ち上がるのを助けた。
2人は微笑み合って部屋を出ていく。
穏やかな日差しが差し込む部屋には、揺り椅子だけがゆらゆらと揺れていた。
ー揺り椅子・完ー