変わらない想い-1
梅雨が明けた。すでに夏の日差しだった。
「ごめんな、マユ、引っ越しの手伝いなんかさせちゃって。」ケンジが段ボールを外に運び出しながら言った。
「何言ってるの。ここ、あたしたちの実家じゃない。」
海棠一家の新しいマンションでの三世代同居が決まり、海棠家とシンプソン家の人々はケンジたちの実家の荷物を運び出す作業を賑やかに進めていた。ケンジたちの両親は引っ越しの間、街のシティホテルに滞在していた。
「二階は全部済んだでー。もう何も残ってへん。」ケネスが二階の窓から顔を出して言った。
「そうか、ありがとう、ケニー。」そしてケンジはまた家の中に入った。
「台所もきれいになったよ。」真雪が汗を拭きながら言った。
「真雪はもう休んでなさいよ。お腹をいたわらなきゃ。」床をぞうきんがけしていたマユミが言った。
「うん。無理はしてない。大丈夫。」
「元気な赤ん坊、産むんやで、真雪。」二階から降りてきたケネスが真雪のお腹をそっと撫でた。
「ありがとう、パパ。」真雪は額の汗を拭って微笑んだ。
ケネスはペットボトルの水を飲みながら言った。「さあ、あと一踏ん張りやな。」
「じゃあ、先に行ってるから、ケン坊。」陽子が荷物を積んだトラックの運転席から顔を出して言った。
「すいません。面倒かけます、陽子先輩。」ケンジは手を振った。
「ほなわいたちも。」ケネスがみんなを乗せたワゴン車の運転席に乗り込んだ。「後のこと、大丈夫やな?」
「ああ、戸締まりして鍵掛けたら、大家さんに届ける。任せろ。」ケンジが言った。
陽子の運転するトラックに続いて、ケネスの運転するワゴン車も遠ざかっていった。
住む者の誰もいなくなった家の前に、ケンジはマユミと二人で立っていた。
ケンジはマユミの手をとって玄関に入った。