変わらない想い-6
12月。その日は穏やかな小春日和だった。
「なにっ?!生まれたっ?!」修平が目を剥いて叫んだ。その声を聞いて夏輝も駆け寄ってきた。修平は一度スマートフォンを耳から離して夏輝に言った。「赤ちゃん二人とも元気だって。」
「ホントに?」夏輝は飛び跳ねた。
「よっしゃ!真雪、ようやった!」ケネスがガッツポーズをした。
「二人とも健康だって。女のコが2800グラム、男のコは2600グラムだって言ってたよ。」マユミがタオルや着替えを手提げ袋に詰めながら言った。
「他に何か用意するもの、ありませんか?」春菜が少しおろおろしながら言った。
「今のところこんなものでいいよ。春菜さんもいっしょにいらっしゃい。赤ちゃん見たいでしょ?」
「はい。」春菜はにっこり笑った。「支度してきます。」そしてカフェオレ色の前掛けを外しながら自分の部屋に急いだ。
「俺も父さんも、店を空けるわけにはいかないから、龍とマユによろしく伝えて。」健太郎が白いユニフォーム姿のまま自分のアトリエから顔を出して言った。
「わかった。伝える。」
「龍は何か食べたのか?昨夜から真雪につきっきりだったんだろ?」ケンジが言った。
「何か買っていこうか、食べる物。」ミカが慌ただしく身支度をしながら言った。
「そうだな。『シンチョコ』でマユと春菜さんを拾ったらコンビニにでも寄るか。」
薄いピンクの壁の個室のベッドには真雪が横になっていた。寄り添うように龍がベッド脇に座り込み、彼女の手を握っている。
「みんなには朝一番で連絡したよ。父さんと母さん、もうすぐ来ると思うよ。それにマユミ義母さんと春菜さんも。」
「そう。」真雪は嬉しそうに微笑んだ。
「よくがんばったね、真雪。」
「龍こそ一晩中あたしについててくれて、ありがとう。」
「どうってことないよ。」龍は微笑んだ。
「名前は予定通りでいい?」
「もちろんだよ。」
「龍、」
「なに?」
「覚えてるかな、みんなで山の温泉に旅行に行った時、あなたあたしのおっぱい飲みたいって言ってたよね。」
「あー覚えてる!」龍は笑い出した。「真雪の母乳が飲みたいって言ったんだよね、俺。」
「飲んでみる?」
「初乳は赤ちゃんに飲ませなきゃ。特別な母乳なんでしょ?」
「よく知ってるね。」
「俺も勉強したからね。いろいろ。」
「感心感心。」真雪は龍の頭を撫でた。
「それに、二人分の母乳が必要だからね。俺の分残ってるかなあ。」
「いっぱい作るよ、あたし。龍の分まで。」
「真雪のおっぱいは大きくて牛並みだからね。楽しみにしてるよ。」龍は笑って真雪にキスをした。
その時、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ。」龍は立ち上がり、ドアの方を振り返って言った。
「真雪、龍。」ケンジがドアを開けて入ってきた。「おめでとう!」
「よくがんばった。真雪、二人まとめて産むの、大変だっただろう?」続いて入ってきたミカも言った。
後ろからマユミと春菜が入ってきた。「真雪、」
「ママ。春菜も。」真雪が嬉しそうに顔を上げて言った。
「あなたもいよいよお母さんね。おめでとう。」
「おめでとう、真雪。」
「ありがとう。」
龍が入ってきた四人に言った。「赤ちゃん、隣の部屋だよ。一応保育器に入ってるけど、何の心配も無いって。」
「そうか。じゃ、会ってくるかな。」ケンジたちは部屋を出た。
ガラス越しにケンジたちは目を細めて、並んで寝かされた二人の赤ん坊を見つめた。
「目元は龍、だね。」ミカが言った。
「ちょっとだけマユに似てないか?口元あたりがさ。」ケンジが言った。
「女の子の方はやっぱりどことなく母さんにも似てる気がするけどね。」隣に立った龍が言った。
「名前はもう決めたの?龍くん。」春菜がにやけ顔の龍を見て言った。
「うん。」
四人は龍に向き直った。龍は微笑みながら言った。「男の子は健吾、女の子は真唯。」
「へえ!」ケンジたちはまた二人の赤ん坊に目を向けた。健吾、真唯と名づけられたその二人は同じように目を半開きにして同時に笑った。
Twin's Story 「Chocolate Time」シリーズ全編 the End
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