変わらない想い-5
「マユ・・・・。」「ケン兄・・・・・・。」
はあはあと二人はまだ荒い呼吸を繰り返していた。ケンジはマユミの身体を抱えて仰向けになった。
「ケン兄・・・・・。」
「マユ・・・・。」
二人はまたお互いの名を呼び合い、静かに目を閉じた。
しばらくしてケンジが先にそっと目を開けた。
「マユ、」
「なに?」
「今になってこんなことを訊くのも何なんだけど、」
「どうしたの?」
「俺を初めて受け入れた時さ、おまえ痛くなかったのか?」
上になったマユミは少し恥じらったように顔を上げ、瞬きをして言った。「実を言うとね、」
「うん。」
「すっごく痛かった。」
「やっぱり?」
「うん。無理に広げられる、って言うか、中が擦られる度に、じんじん痛みが強くなってた。」
「ごめんな、マユ。あの時は俺、一人で突っ走ってたから、おまえがそんな痛い思いをしているなんて考えられなかった。本当にごめん。あの頃の俺に代わって謝る。」
「いいんだよ。それが普通なんだから。最初は誰だって痛いもんだよ。女のコはね。」
「不公平だよな。オトコは出して気持ち良くなるだけなのにさ。」
「でもね、大好きな人の身体の一部が自分の中に入ってる、って思うと、痛みよりもうれしさの方が大きいもんなんだな、ってあたしあの時思ったよ。」
「そうなのか?」
「でなきゃ、またこの人に抱かれたい、明日もこの人とセックスしたい、なんて思わないよ、きっと。」
ケンジはふっと笑って背中に回した腕に力を込めてマユミを抱きしめた。「ありがとう。マユ。」
「でもね、二度目からはもう、本当に気持ち良くなってたよ。魔法みたいに。」
「ほんとに?」
「うん。ケン兄に抱かれる、っていう心地よさと、セックスの気持ちよさがいっしょになって。あたし、もうホントに夢心地だったもん。」
「そうか。」ケンジはひどく嬉しそうに笑った。
「初めての人がケン兄で、ほんとに良かった。」マユミはケンジの胸に耳を当て、目を閉じてその鼓動を感じた。
「ん?」ケンジは顔を横に向けた。
「どうしたの?」マユミはまた目を開いて顔を上げた。
ケンジは床にキラリと光るものを見つけた。
「なんだろう・・・・。」マユミを上に乗せたまま彼はそれを指でつまみ上げた。小さな小さな金色のアルミの包み紙の切れ端だった。
「これ、アソートチョコレートの包み紙。」
「ほんとに?」
ケンジはそれをマユミにも見せた。
「ほんとだ、懐かしいね。」
「今までずっとこの部屋にあったのか、これ・・・・・。」ケンジが感動したように言った。「俺たちの思い出といっしょに、ずっとここにあったんだ・・・・。俺たちの時間の証し・・・・。」
「なんだか、すごく健気だね、その包み紙。」
「でもまだキラキラしてる。」
「ケン兄と同じだね。」
「え?俺と?」
「ケン兄の温もりやあたしへの優しさ、まだあの時のままだもん。」
「マユ・・・・。」ケンジはマユミの髪をそっと撫でた。「おまえの匂いもあの時のままだ。」
「ケン兄、背中痛くない?床、硬いでしょ?」
「全然平気だ。俺、丈夫だからな。」
「ずっと丈夫でいてね。」
「そううまくいくかな。」
「え?どうして?」
「俺たち、この冬にはおじいちゃんとおばあちゃんになるんだぞ。」
「そっかー。」マユミは笑った。
「あたしがおばあちゃんになっても抱いてくれるよね、ケン兄。」
「もちろんさ。」
「好き、ケン兄・・・・。」マユミはケンジの唇にまた自分の唇を重ねた。