ケネスの過去-1
『シンチョコ』の定休日。別宅、離れのリビングでミカとケンジ、ケネスとマユミが午後のコーヒータイムを楽しんでいた。
「久しぶりにスクールの休みとかぶったね。」ミカが言った。
「ほんまやな。こうして四人でゆっくりコーヒータイムできるのも、しばらくぶりや。」
「あいつら、今頃お楽しみ中かな。」ミカが時計を見て言った。
「ディナーも済んでやれやれ、ってところだな。」ケンジが言った。
「やつらにとってはこれからがわくわくのプライベートタイム。一晩中寝る暇なんてないよ、きっと。」
「そやけど、わいらもええ歳になってもうたな。」
「まだまだだよ。」マユミが言った。「これからじゃない。」
「マユミの言うとおり。人生これからが本番。楽しまなきゃ。」
「そうだな。子どもたちも本格的に独立したわけだしな。」ケンジが感慨深げに言った。
「龍と真雪はしばらくはケンジんちで一緒に暮らすんやろ?」
「ああ。でもなー。」
「どないした?」
「龍の部屋、手狭になっちまって、二人で暮らすにはちょっと無理があるんだ。」
「そうなんだよ。」ミカが言った。「あいつと真雪、ふたりでも狭いのに、龍のカメラ道具、山のような本、パソコン。そこに真雪の持ち物が入るスペースはない。」
「どうするの?」マユミが訊いた。
「今さ、マンションをいくつかあたってる。」
「この近くにいい物件があるんだ。ほら、そこの公園の裏手。」
「ああ、あそこな。日当たりも良さそうやんか。そやけど、あのマンション、二世帯どころの話やないで。広すぎるんとちゃうか?」
「いや、俺の両親もいっしょに暮らそうと思ってね。」ケンジが言った。「もういい歳だし。」
「そうなれば三世帯!ほんで龍と真雪に子どもでもできたら親子四代一つ屋根の下やないか。」
「いいだろ?理想的だよ。子どもにとっちゃ。じいちゃん、ばあちゃんと一緒に暮らせるなんてさ。」ミカが言った。
「きっとパパもママも喜ぶよ。ケン兄ありがとうね。」マユミが言った。
「おまえもアルバートさん夫婦、大切にしろよ。」
「十分大切にしてもうてるで。マーユにはな。」ケネスが微笑んでコーヒーを一口飲んだ。
「龍も真雪も、二人でけっこう蓄えてるみたいでさ。早ければ夏までには引っ越せるといいね、って言ってるとこだよ。」
「ちゃんと考えてるじゃない、二人とも。」マユミが感心したように言った。
「でもさ、うちに嫁さんがくる、っつっても、真雪だからな。あんまり今までと変わらない感じだ。」ケンジが言った。
「そう言いながら、実はかなり嬉しいんだよ、この人。」
「なんでやねん。」
「うちは一人息子だったでしょ。娘が家にいるってだけで、雰囲気が全然違うよ。親子同然の真雪でもね。」
「実は俺、ちょっと気を遣う。真雪に。」
「手だけは出さないでくれよ。」ミカが横目でケンジを睨んだ。
「出すかっ!」
「で、ここはどうするんだ?ケニー。」
「店の二階から親父とおかんを追い出して、この離れの一階に隠居させるつもりや。わいとマーユが本宅の二階に住む。その方が店に出るのに便利やからな。」
「じゃあ、今まで真雪がいた部屋は?」
「この二階の二部屋を一つにして新婚夫婦の部屋にしたらなあかん、思てる。」
「なるほどな。」