披露宴-8
ケンジが渡されたマイクを持ち、招待客に向かって話しはじめた。
「この度は、我々の子どもたちの結婚を祝う披露宴にお越し下さいまして、誠にありがとうございます。親を代表して、僭越ながら私海棠ケンジが、皆さまにお礼のご挨拶を申し上げます。」一息ついて彼はゆっくりと続けた。「我々は、この子たちの成長をずっと見てきました。そしてこの子たちが立派に成長する手助けをしてきたつもりです。結婚が成長のゴールではもちろんありませんし、これからも彼らは幾多の困難にぶつかりながら成長を続けていくことでしょう。しかしこの結婚を機に、彼らの心の中に生まれた誓いというものを私たちも大切にしなければならないと思います。恋人時代だった今までのように、ただ甘いだけの時間、ただ優しいだけの気持ちだけでは、夫婦は共に過ごすことができないからです。お互いの全てを知り、受け止め、解り、返し、また受け止め。こういうことを繰り返しながら過ごしていかなければならないのです。」ケンジはちらりとミカを見た。「しかし、何と言ってもお互いを結びつけるものは『癒される想い』だと私は思っています。向き合って会話をする、腕を組んで歩く、手を取り合う、キスを交わす、抱き合う。そこにお互いが癒やしを感じなければ夫婦とは言えない。たとえ外で困難にぶつかり、心が折れそうになったとしても、家庭に戻ればお互いが癒し合える。そういう関係でなければなりません。」ケンジは神妙な顔の四人の方を向いた。「今、その想いは彼らの中に溢れています。ご覧いただいていればおわかりのように、この二組のカップルがお互いを想う気持ちは強く、また大きい。今のその気持ちをどうか、忘れずに。」そしてまたケンジは正面を向いた。「そして我々はそれを、これからも見守り続けます。本日はどうもありがとうございました。」ケンジを始め、三組の両親は頭を下げた。
会場から大きな拍手が贈られた。
「ありがとうございました。ケンジさんの言葉は染みますね。」夏輝が言った。
「そうですね。あんなお父さんだから、龍はまっすぐ育ったんだろうね。」
「真雪、幸せもんだね。長時間ステージに立って頂き、ありがとうございました。ご両親は席にお戻り下さい。」
夏輝が促すと、新郎新婦が両親をエスコートして元の席に案内した。
「さて、」修平がマイクを持ち直した。「皆さまに、ビッグなプレゼントのお知らせです。」
「お知らせです。」
「この度無事結婚を果たした二組のカップルは、三日後ハネムーンに出発します。」
「はい、嬉し恥ずかしハネムーン。」
「そして我々夫婦も同日ハネムーンに出かけます。」
「何しろ、私たち二人とも忙しくて、去年の末の結婚後、すぐに出かけられなかったからです。」
「はい。そういうことです。そして行き先はハワイ。」
「思い出のハワイですね、海棠家とシンプソン家にとっては。九年ぶり。」
「はい。そうですね。というわけで我々6人で一緒に行くことになってます。」
「これはびっくり!」
「自分で言うな!」
「そんなんハネムーンって言うのか?」
「いいだろ。賑やかで楽しげじゃんか。」
「もちろん、ちゃんとプライベートな時間はたっぷり確保してあります。そこで、」夏輝は語気を強めた。「6人で皆さまにお土産を買って参ります。どうぞご期待下さい。」
「結局割り勘にしたかった、ってことか?」修平が言った。
「そんな不必要に深読みをしないの。」
「私たちも初めてのハワイにわくわくしています。でも、一度行ったことのあるケンタや真雪や龍にたっぷりガイドしてもらうつもりです。」
「おまけに春菜にも通訳を頼めるしね。」
「おまえも下心十分じゃねえか。」