披露宴-6
「さて、宴もたけなわですが、」司会の夏輝が元の場所に戻って言った。「これからもたけなわです。」
「なんじゃ、そりゃ。」隣の修平がマイクでたしなめた。
「いや、だからね、まだお開きじゃないって、言いたかったんだよ。」
「じゃあ最初からそう言え。」
「えー、この披露宴には実質お開きがありません。」
「なんでだよ!それじゃ新郎新婦が疲れてしまうだろ?」
「これがホントの疲労宴、なんちゃって。」
どっ!会場が沸いた。
「いいかげんにしろ!」修平が呆れて言った。
「ほんとにいつまでもいていいんですよ、お客様方。」夏輝は客に向かって言った。
「はい。実はこの会場、普通のホテルや結婚式場と違い、なにしろ実行委員の海棠夫婦の経営です。」
「ですから、時間を気にせず、盛り上がれる、ということで。」
「お酒の持ち込みも自由。はす向かいにコンビニもありますので、お好きなモノを持ち込んでそのままここで二次会でも。」
「とは言え、いつまでもお客様をお引き留めすることは、我々の本意ではございませんので、」
「お帰りの際は、私たち司会にお声を掛けて下されば、記念の品をお土産としてお渡しし、心を込めて新郎新婦がお見送りをさせていただくことになっております。」
「その際は、けっして彼らの身体に触ったり、衣装に手を掛けたりしないでください。」
「ここは妖しげな飲み屋かっ!」
「いや、何しろ裸同然だし。」
「と、とにかく、お時間の許す限り、お楽しみ下さいね。って、俺とうとうケーキ食えなかった。」
「突然何言い出すかな。」
「だって、俺おまえとの結婚式の時もケーキ食えなかったんだぞ。」
「あたしも食べられなかったよ。でもそれってあんたのせいでしょ?」
「そうだったっけ?」
「あんた大切なケーキ入刀の時、つまづいてケーキに顔突っ込んだじゃないか!」
「おお、そうだった、そうだった。」
「そうだった、じゃないっ!あたしめちゃめちゃ恥ずかしかったんだからね。」
「そういうおまえも衣装替えして会場に戻ってきた時、自分のドレスの裾踏んですっころんだだろ?」
「そうだっけ?」
「そうだよ。その時俺の腕にしがみついて、上着のボタンが一つはじけ飛んだよな!」
「事故だよ、事故。」
「飛んだボタンが来賓で呼んでた俺の学校の校長の額を直撃。俺、相当恥ずかしかったんだからな。あの時。」
会場は笑いに包まれていた。「いいぞ!もっとやれ!」一つのテーブルから声が掛かった。
「な、なにやってんだ、おまえ、俺たち司会者だぞ!漫才やってる場合じゃねえだろ!」
「あんたがツッコミ入れるからじゃない。」
「よし、それじゃ新郎新婦ネタでいくか。」
「主賓だからね。賛成。」
「さて、新郎の一人健太郎は、そこにいるもう一人の新婦の真雪とは双子の兄妹であります。」
「そうです。」
「小さい頃から二人は非常識に仲が良く、ずっと寝る時は手を繋いでいたとか。」
「小学校卒業する時までね。」
「はい。そしてそのままつき合って結婚するのではないか、と我々も心配しておりましたが、」
「そんなわけあるかっ!」
「海棠家の龍に真雪を奪われてしまってからは、健太郎、ちょっと焦ってたようであります。」
「はい。龍くんと真雪が目の前でいちゃいちゃするのを見せつけられ、何度か鼻血を噴いたことも。」
「あったらしいねー。しかし、確かに龍と真雪は人目も憚らずいちゃいちゃするのが得意で。」
「あたしたちも何度か見せつけられたよね。そうそう、実は龍くんは真雪の巨大なバストが大好きで、」
「おいおい、そんなことバラしていいのか?」
「めでたい席だからいいの。」
「知らねえぞ、俺。」
「大丈夫。みんな酔ってる。明日には忘れてるよ。」
「なんでやねん。」
夏輝と修平の漫才は延々と続き、会場の雰囲気を和ませた。