披露宴-5
二組の新郎新婦の前のケーキは、瞬く間になくなってしまった。龍はトレイを下げに来たホールスタッフのたけし、ひろし、あつしに声を掛けた。
「三人とも、今日はありがとう。いろいろ雑用を任せちゃって、申し訳ない。」
「何言ってやがる。」ひろしが笑顔で言った。「俺たちが買って出たんだ。気にすんな。」
「三人とも、ちゃんと食べた?」真雪が申し訳なさそうに言った。
「いただきました。」たけしが言った。「けっこうつまみ食いしてたから。」
「あ、飲み物に牛乳準備するの、忘れてたね。」真雪がしまった、という顔をして言った。
「・・・・いや、普通披露宴に牛乳は置かないでしょ。」たけしが言った。
「焼きスルメはあったけどな。」ひろしが言った。
「母さんのシュミなんだ・・・。」龍が恥ずかしげに言った。そしてすぐに真雪の顔を見て続けた。「でもなんで牛乳なんだよ、真雪。」
「だって、ひろしくんの背、伸ばすために・・・・・。」
「大きなお世話ですっ、真雪さん。」
ひろしは身長が中三の頃の160aのままだった。
「そうかー。そうだよな。」龍が言った。「確かに未だにその身長だからなー、ひろし。買ってきてやろうか?表のコンビニから。」
「ぶん殴るぞ。」ひろしは拳を握りしめた。「それにおまえ、そんな格好で買いに行く気かよ。」
一同は笑いに包まれた。
「あ、それに、ケーキ、食べられなかったね、三人とも。」真雪がまた、しまったという顔をした。
「ご心配なく。」たけしが言った。
「俺たちのために、ケニーさん、特別にケーキこしらえてくれてたんす。」ひろしが言ってウィンクをした。
「え?ホントに?」龍が言った。
「うん。ちょっと小ぶりだけど、すんげーうまかった。」
「ホールでいろいろやってたらきっと食べられないだろうから、って。」あつしが顔を赤くして言った。
「パパがねえ。」
「そうなんすよ。」
「粋なことやるね、ケニー叔父さん。」
「ところで、あつし、」健太郎が割って入った。「おまえ、なんで赤い顔してるんだ?飲み過ぎたか?」
「こいつ、」ひろしがおかしそうに言った。「真雪さんと春菜さんの水着姿に酔っちまって。」
「そうか。あつしは奥手でシャイだからな。三人の中では。」
「そ、そんなに顔、赤いですか?」あつしはますます赤くなって恥ずかしそうに言った。
春菜が言った。「彼女、いないの?」
「・・・は、はい、まだ・・・。」
「っつーか、こいつまだチェリーボーイなんすよ。21なのに。」ひろしが言った。
「ば、ばかっ!」あつしが小さく叫んだ。「よ、余計なこと言うなっ!」
「龍を見習え。」
「そうだそうだ。こいつは中二の頃はすでに真雪さんと毎晩エッチしてやがったんだぜ。」
「毎晩なわけあるかっ!」龍が赤くなって言った。
「羨ましいったらありゃしない。このやろめ!」
真雪がにこにこしながら言った。「じゃあ、試しにあたしの胸、触ってみる?あつしくん。」
あつしが顔を上げた。「え?いいんですか?真雪さん。」
「だめだっ!」龍が叫んで真雪の水着姿の身体をぎゅっと抱き寄せた。
「変わってねえなー、龍。わっはっは!」たけしとひろしは大笑いした。
「やばい・・・」あつしは鼻を押さえた。指の間から血が垂れている。「は、鼻血が・・・。」