夏輝の誕生日-3
修平を背にして、夏輝が優しく言った。
「おまえら、家を出てどれくらい経つ?」
二人は黙っていた。
「俺のアパートに時々やって来るんだ。」田中が言った。
「時々、ってことは、住む家もあるし、養ってくれてる親もいるわけだろ?おまえら。」
「・・・・・・。」
「今のうちに頭使って、身体使って、自立するためにもがくんだ。大人になってからじゃ遅いぞ!」
「な、夏輝さん・・・。」
「なんだよ、もうあたしの名前覚えたのか?」
「うん。」小太りの少年は、出会った時とはまったく別人のように素直にうなづいた。
「かわいいとこ、あるじゃない。それに、おまえも、」夏輝は痩せた少年に目を向けた。「おまえの年齢ぐらいなら、女の乳に興味があることぐらい、わかってるよ。だけど、それも勉強しなきゃうまくいかないんだぞ。」
「俺、勉強なんか嫌いだし。」
「違う、その勉強じゃないよ。おっぱいの触り方だとか、女のコへの声のかけ方だとかの勉強だ。」
「え?」
「ここにいる修平も、最初のエッチの時なんか、超へたくそだったんだぞ。あたし即刻別れちまおうか、と思ったぐらいだ。」
「悪かったな。」修平がぼそっと言った。
「あたしは二丁目の交番にいつもいるからさ、遊びに来いよ、時々。」
「え?あんた、お巡りさんだったの?」
「都合よくね。」夏輝がウィンクをした。
「相手が悪かったな。」修平が言った。
「夜、自分の将来のことを考えながらとぼとぼ歩いているところを、二丁目の交番のお巡りさんに保護されました。親にはそう連絡する。いいだろ?」
「田中んちにも時々行ってもいいじゃねえか。前向きに相談に乗ってくれるんだろ?」修平が言った。
「俺自身が、まだいっぱいいっぱいだからな・・・。」田中がうつむいて言った。「こいつらになつかれるのは悪い気がしない。でもな、俺を手本にされてもな・・・・。」
「少なくとも大人なんだし、こいつらより長く生きてる分、教えることもいっぱいあるだろ?」
「ま、まあな・・・。」
「将来ある中学生の人生をまっとうにしてあげなよ。せっかく知り合ったんならさ。」
「天道、おまえ、今は・・・。」
「俺か?俺は今中学校の体育の教師やってるよ。」
「おまえらしいな。剣道も続けてるんだろ?」
「ああ。道場には通ってるぜ。おまえも来いよ。」修平は笑って田中に手を伸ばした。「気晴らしに。」田中は少しためらいながらもその手を握り返した。
「今ならまだ引き返せるから、安心しな。」夏輝が中学生の二人の前にしゃがみこんで笑顔で言った。「むしゃくしゃしたら交番に来いよ。おっぱい触らせたりはしないけど、話はどんだけでも聞いてやるよ。あたし暇だからね。」