陽子への癒し-4
「ケン坊、どうもありがとう。とってもよかった・・・・。」陽子は少し涙ぐんで言った。
「陽子先輩を満足させられたかな。」ケンジは今さらながら照れたように頭を掻いた。
「うん。満足したよ、あたし。ミカって幸せだね。こんな素敵な人をダンナにできて。」
「カズって、旦那さんの名前ですか?」
「ごめんね、ケン坊。あなたに抱かれながら、他の人の名前呼ぶなんて、無礼千万だよね。」
「とんでもない。かえって俺も安心です。その方が。」
「なんで?」
「だって、イく時、俺の名前呼ばれると、ホントに恋人か愛人のように錯覚しちゃいますもん。陽子先輩が違う人を想像しながらイってくれれば、俺も背徳感をあまり感じずにすみますからね。」ケンジは笑った。
「ダンナの名前は一樹。あたしはカズって呼んでた。ケン坊の愛し方、カズに本当によく似てる。あたしの耳が感じやすいって、ケン坊、知ってたの?」
「え?いいえ。」
「カズは、もうすぐって時に必ずあたしの耳に息を吹きかけて耳たぶを咬んでた。」
「そうなんですか?」
「ケン坊にもそういうところがあったんだね。」
ケンジは陽子と繋がったまま、静かに横になった。
「でも俺、そう言えば今までセックスの時、相手の耳を咬んだりしたこと、なかったな。」
「そうなの?」
「はい。記憶にある限りでは。」
「なんで今やってくれたの?」
「俺にもよくわかりません。何でかな・・・。」
「それに、陽子って呼ぶ声もカズにすっごく似てた。ケン坊の今の声と違ってたよ。まるでカズが貴男に乗り移って、本当にあたしを愛してくれてるみたいだった。実際乗り移ってたのかもね。」陽子はひどく嬉しそうに笑った。
「陽子先輩・・・。良かったですね。」ケンジはしんみりと言った。「一樹さんに久しぶりに抱かれて、本当に、本当に良かったですね・・・・。」ケンジは涙ぐんだ。
「なんでケン坊が泣くんだよ。」
「ご、ごめんなさい。変ですね、俺。」
陽子はケンジの涙をその細い指で拭った。拭いながら陽子の目にも揺らめくものが宿り始めた。
「あの頃の胸の高鳴りが鮮やかに蘇ったよ。」陽子の目に溜まっていたものがほろりとこぼれた。「ほんとにありがとう、ケン坊。あたしにまた甘い夢をみさせてくれて・・・・。」
今度はケンジが陽子の頬の涙を指でそっと拭った。「シャワー浴びます?先輩。」
「ううん。もうちょっと抱いててもらってもいい?ケン坊。」
「もちろん、いいですよ。」ケンジは微笑んだ。そして陽子の背中に腕を回した。
「あたしね、それでもカズとは、あんまりセックスしなかったんだよ。」
「そうなんですか?」
「彼、あんまり積極的じゃなかったからね。」
「そうなんだ。」
「でも、あたしはあの頃セックスでしか二人は繋がり合えない、って思い込んでて、毎晩のようにカズを求めたんだよ。」
「彼は応えてくれましたか?」
「うん。いつもってわけじゃなかったけど、彼なりにね。でも、すぐに妊娠しちゃって・・・。彼はとっても喜んでくれてたけど、内心どうだったのかな。」
「え?」
「これであたしと離れることができなくなった、って残念な気持ちもあったかもしれないね。」
「そ、そんなこと・・・・。」
「もっと遊びたかっただろうしさ。」
「一樹さんは陽子先輩を愛してたんでしょ?」
「もちろん、あたしはそう思ってる。そう信じたいよ・・・・。」
「大丈夫ですって。だって、さっきから俺、なんか上の方から誰かに睨まれてるような気がずっとしてる。」
「うそー。」陽子は笑った。
「陽子先輩にはナーバスな雰囲気は似合いませんよ。」
「それって、褒めてんの?」
「褒めてます。当然です。」