『SWING UP!!』第10話-16
城央市立野球場に、六大学のチームが全て出揃うのは、“隼リーグ”の開幕初日に限られたことである。
「いよいよ、きましたね」
監督のエレナが言うように、双葉大学軟式野球部は、1部リーグに初めてその名を連ねて、今日と言う日を迎えたのだ。
20年を数える歴史を刻んだ“隼リーグ”で、例年見かけていたユニフォームが、ついに1チーム、違うものになった。それだけでも、今年のリーグ戦は注目度が違っている。
「見られているな」
「まあ、仕方がないところだろう」
雄太と岡崎が言うように、球場に足を踏み入れたときから、まるで値踏みをされるような視線を感じていたが、それもやむをえないところであった。それが、プレッシャーにもなっているようで、チームのメンバーたちは、一様に言葉少なげなまま、開会式に臨んでいた。
「本年度の“隼リーグ”は、大きな歴史の動いた年であるとも言えましょう」
壇上に立つ、東日本軟式野球推進協議会会長・藤田篤司氏のスピーチが続く。初代会長である川上修平氏の逝去を受けて、その座を引き継ぎ、“隼リーグ”の運営に堅実に貢献している人物である。
ちなみに、2部リーグの門戸を広げ、現在の様式にしたのも、藤田会長の代からであった。
この藤田会長は、やはり、東京ガイアンズに所属していた元・プロ野球選手で、チームの監督を務めたこともある。選手としては、名門のガイアンズで長くエースとして君臨し、栄光の背番号“18”の系譜を継ぎ続けてきた名投手であった。そして、監督としては、ミスタープロ野球と名高い永嶋秀雄氏の後任を、重圧のかかる中で立派に勤め上げ、“中継ぎ監督”と揶揄されながらも、日本一を三度達成するなど、名監督と呼ぶにふさわしい実績を挙げてきた。
その監督の座を、件の永嶋氏に再び譲った後、藤田氏にとっては恩師とも言える、川上氏の急逝を受ける形で、協議会の会長となって現在に至る。
「先代会長の掲げてきた、性別・年齢・国籍に左右されない、野球が好きな者たちが集まって、己の実力を切磋琢磨しようという理念。それを忘れることなく、皆さんの健闘を祈り、熱い戦いを期待する次第であります」
篤実な話しぶりは、ガイアンズの監督であった頃から変わらず、それでも、言葉の端々に浮かぶ隠れ熱血漢としての一面が、“隼リーグ”に参加している全てのチームに、熱い想いを滾らせていった。
「本年度は、新たな試みとして、前期日程終了後に、西の“猛虎リーグ”選抜チームとの交流戦を、1試合、行うことになりました」
どよ、と球場内がざわめいた。“隼リーグ”と“猛虎リーグ”の、総合優勝チーム同士の日本一決定戦が、甲子園球場で行われていることは、このリーグ戦の大きな特徴でもあったが、それに加わる新たな交流戦を企画したと言う。
日本一決定戦とは違い、選抜チーム同士が対戦するこの試合は、いうなれば“オールスターゲーム”のようなものであろうか。
「東西交流試合は、硬式野球大学連盟と、本拠地球団の好意を得まして、“神宮野球場”で行います」
おおっ、と、ざわめきはどよめきに変わった。“神宮野球場”と言えば、硬式の六大学対抗戦が行われている、大学野球の“聖地”である。“甲子園球場”と匹敵する、野球選手にとって憧れの球場ともいえよう。
代表チームに選ばれれば、たとえ1試合だとしても、その聖地に立てるのである。そして、そのチャンスは、遍く全ての選手に与えられている。
「チーム同士の戦いですから、成績が奮わないこともありましょう。ですが、その中でも己の力を振り絞り、チームのために戦う姿勢を示し続けたものは、“隼リーグ”を代表する選手として、選ばれることになります。皆さんの野球にこめる熱い思いを、ぜひ、最後まで見せていただきたい」
チームの勝敗に左右されない、一層の研鑽と奮闘を期待する。そんな熱気が込められたメッセージを以って、藤田会長のスピーチは終わり、“隼リーグ”の開会式は終了した。
『第1試合は、城南第二大学 対 双葉大学です。両大学の選手は、速やかにウォームアップを開始してください』
この日はそのまま、2試合が行われる。いわゆる、“開幕ゲーム”と言っていい第1試合目に、1部リーグ初お目見えの双葉大学が登場するため、今日は試合のない2つの大学も、球場のスタンドにそのまま残り、観戦に備えていた。