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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-12

「ん? そういえば、そろそろかな」
 不意に務が、何かを思い出したかのように、時計に目をやった。

 がら。

 と、“蓬莱亭”の入り口が音を立てたのは、それと同時のことだった。
 今日が定休日であることは、暖簾が内側に仕舞われていることでわかるようになっている。それでも、店内に明かりがついているとはいえ、店の扉を開けるということは、訪れた“客”は、今日の大和たちのように“蓬莱亭”の事情に精通している関係者ということになる。
「あなたぁ、きたわよ〜」
 店にやってきたのは、小さな女の子を二人連れた、妙齢の女性だった。
「きたわよ」
「わよぉ」
 母親のマネをして、まだ小学生前の年齢である女の子二人が、そう言う。
「おう、美野里。美加、美玖」
「「おとぉさぁん!!」」
「よく来た。ほれほれ、頭をなでてやるぞ〜」
「「うわぁい!」」
 務がそれを迎え入れ、我先にと足元に寄ってきたふたり娘の頭を、それぞれわしわしと撫でていた。
 もう間もなく、自分もこんなふうに子供を出迎えるような日が来るのか、と、感慨深くなって、龍介はその光景に目を細めていた。
「大将さん、こんばんは〜」
「こんばんは」
「ばんはぁ」
「美野里はん、いらっしゃい。美加ちゃん、美玖ちゃんも、ようきたな」
「ええ。よう、きましたです」
「きましたです」
「ですぅ」
「あんまり相手もできんけど、遠慮なくゆっくりしてってなぁ」
「ありがとうございます〜」
「ございます」
「ますぅ」
 …にわかに“蓬莱亭”が、騒がしくなってきた。
 改めて、の話になるが、店にやってきた女性の名前は、木戸美野里という。そして、二人の女の子はそれぞれ、美加と美玖という。美野里は務の細君で、美加と美玖は、務と美野里の間に生まれた、年子の愛娘たちである。
「美野里、航も今日は来てるぞ」
「えっ、そうなの!?」
 航、と聞いて、美野里の顔が輝いた。少なくとも、結花にはそう見えた。
「航ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 早速とばかりに店内を照準に合わせ、すぐさまその後ろ姿を確認すると、瞬間移動でもしたかのように、美野里は航の座るテーブルに姿を表した。
(この人、できるな)
 大和も瞠目する、美野里の身のこなしであった。
「航ちゃん、御飯ちゃんと食べてる? 洗い物、溜め込んでない? お掃除とか、きちんとできてる?」
 ほとんど母親のように、矢継ぎ早にそういう美野里。
 航はそれが予想できていたので、少しどころか、かなり困った様子で、彼にしては本当に珍しいくらいの、恥じらいで真っ赤になった頬を見せていた。
「みの姉ちゃん、大丈夫だから。ちゃんと、してるから」
「ほんと〜? ほんとのほんとに、ちゃんとしてる〜?」
 務と結婚して、木戸家にやってきた美野里は、その当時小学生だった、務とは歳の離れた双子のきょうだい、航と翔の、姉というか母親も同然の存在だった。
 木戸一家の家長である父親(名前は“正”と言う)は、各地を長期的に点々とする特殊なエンジニアでもあったため、単身赴任での勤務が多く、美野里が嫁入りして、翔と航の双子のきょうだいが中学校を卒業した時を機会に、その連れ合いである母親(名前は“碧”と言う)もまた、木戸家の事は頼れる長男夫妻に任せて、父に付き添うようになった。
 航が高校に進んだ頃は、実質、長男夫妻が自分にとっての保護者になっていたのである。もちろん、父親夫妻も定期的に帰ってくることはあったから、それに対する寂しさこそあれ、反発することはなかった。父親のしている仕事が、どれだけ社会に貢献していることなのか、航もこの頃になればよくわかっていたし、それを側で支えようと言う母親の意思も尊重したかった。
 困ったことと言えば、義姉の美野里がやや…いや、相当に過保護であったと言う点であろうか。思春期真っ只中にある航が、義理の姉とは言え、血の繋がらない女性が身近にいて、それが、何くれとなく世話を焼いてくれるのだから、物思わないわけにはいかないところもあった。


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