10 二匹の飛竜(人外性描写)-5
今の主ベルンは、バンツァーにとって三代目の主だ。
前の二人も勇敢な騎士であり、頼もしい飛竜使い達だった。
最初の主と始めて竜騎士に入った時、バンツァーは今のナハトより若く、主も元気な少年だった。彼と幾度も戦地をかいくぐった。
主は青年になり、やがて歳をとって騎士団を引退し、バンツァーと里で後継者を育てながら余生を過ごした。
二代目の主も、気持ちのいい陽気な少年だった。
バンツァーは再び騎士団に戻り、団長となった二代目の主と、再び戦い抜いた。彼が長になる為、一緒に里に帰り、また主が天寿をまっとうするまで寄り添った。
二人の主を、今でもしっかりバンツァーは憶えている。
かけがえない存在であり、彼らを背に乗せ飛んだ日々が誇らしい。
彼らと供に、数え切れない程の死を見てきた。
それは主に戦場で、リザードマンとも魔獣とも蛮族とも魔法使いとも、あらゆる種族と戦った。
塩の道で戦った事も、一度ならずある。
死は敵だけでなく、味方の命も容赦なく摘み取った。
何匹もの同胞が撃ち落とされ、二度と飛べなくなった。
バンツァー自身、もう駄目だと思うほど追い詰められた事も、一度や 二度ではない。
けれどいつも際どい所で、彼の翼は死の手から逃れた。
何を引き換えにしようと、背中の主を守りぬく。
それだけをいつも考え、生き抜いた。
だが、人間の寿命は飛竜のそれよりはるか短い。
二人の主が安らかな死を迎えた時、二回に渡って思い知らされた。
誰しもいずれは、死の手に抱かれるのだ。
それが明日なのか、それともずっと先かの違いだけで。