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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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10 二匹の飛竜(人外性描写)-3

***

〔お願い、おじさま。あたし頑張るから〕

 スリスリと首を擦りつけ、ナハトが強請り続ける。

〔何事も日々のたゆまぬ努力が大事だって、おじさま教えてくれたじゃない〕

〔全てが努力でどうにかなると思うな、とも教えたぞ。駄目なものは駄目だ〕

 何を頑張るつもりだ。と呆れながら、バンツァーは空になった荷台を脇に寄せた。

 例外もあるが、飛竜は低い繁殖力を補うため、発情期には雄も雌も、複数の相手を求め合い交尾をする。
 盛りを過ぎていても、バンツァーは強い雄だ。
 毎年多くの雌から求められるし、もちろんそれに悪い気はしない……が、ナハトは問題外。

〔里のおばさま達も、あたしは今に立派な卵を産めるって、褒めてくれるもの〕

〔ならば、尚更だ。時期が来るまで身体を大事にしろ〕

 バンツァーにしても、贔屓ぬきでナハトは優秀な雌だと思う。
 鱗の色つやもよく、すんなりのびた尾の形も見事。健康で賢く飛ぶのも巧い。
 もっと分別ない若造の頃だったら、大喜びで盛っていただろう。
 だが幸い、冷静な観察をできるくらいには歳を喰っていた。
 瞳を潤ませ、発情した雌の匂いを漂わせていても、ナハトの身体はまだ成熟しきっていない。

〔たとえ無理に生殖器を入れても、怪我をするだけだ。そんな交尾に何の意味がある?〕

 辛抱強く言い聞かせるが、ナハトは身体を擦りつけ続ける。
 異変に気付いたカティヤとベルンの制止さえ、耳に入らないようだ。

〔怪我したって平気。すごく痛ければ……おじさまが居なくなっても、ずっと覚えていられるでしょう?〕

〔俺を?〕

 ナハトの声から、発情期らしからぬ悲痛なものをかすかに嗅ぎ取り、バンツァーは主へ訴える。

〔主、すまぬが席をはずしてくれ。あとは飛竜同士の会話だ〕

 正確な言葉は通じなくても、飛竜使いの義兄妹は席を外してくれた。
 中庭の兵士達も一緒に連れて行ってくれ、心地いい青芝が広がる夏の庭に、大小の飛竜だけが残る。
 そっとナハトの鼻先を舐め、静かに笑いかけた。

〔おぬしから見れば、俺は墓穴に尾を入れた年寄りだろうが、もう少しは頑張るつもりだぞ?〕

〔歳寄りなんて、そんなつもりじゃ……〕

 慌てたナハトが翼をばたつかせる。

〔ならば、何を怖がっている?〕

 問いかけると、ナハトはしばらく目を泳がせた後、おずおず上目使いに視線を向けた。

〔あたし、酷い子だから……〕

〔おぬしが酷い?俺の目はいつから節穴になった?〕

〔だって、大好きだったママを、もうよく覚えてないの……どんな顔をしてたか、声も……〕

 泣き出しそうに口元を震わせ、ナハトがしゃくりあげた。

〔先の事なんか、誰にもわからないじゃない!ママみたいに、突然死んじゃったり……
 それにもし、カティヤとここにずっといる事になったら……あたし、おじさまも忘れちゃうかもしれない……〕

〔そんな事にはならんよ。主は一ヵ月後に連れ帰ると断言している〕

〔でも……〕

 ナハトの目端に浮かぶ涙を舐め取った。

〔そうだな、発情を抑える真似事くらいなら良いだろう〕

〔おじさま?〕

〔伏せてみろ〕

〔……ん〕

 今度は従順に頷き、ナハトが膝を折って伏せる。
 その身体を腹の下に逆向きに跨ぐようにして、バンツァーは薄紫をしたナハトの尾へ首を伸ばした。
 尾の付け根を軽く甘噛みすると、下半身がバネ仕掛けのように跳ね上がる。
 反動で上体はさらに低くなり、自然と腰を高く掲げた交尾の姿勢になった。



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