4 塩の道-3
街道の旅籠がリザードマンに襲われていると聞き、あわただしく兵を集めるアレシュに、カティヤは手伝おうと申し出た。
リザードマンは共通の敵でもあるし、襲われている隊商には、故国の者も混じっているかもしれない。
余計な口出しをするなと言われるかと思ったが、アレシュは反対しなかった。
エリアスも、面白そうに頷く。
「彼女たちが、ジェラッド国で名高い竜姫だ!」
石畳みの広場に、武装した騎士達が整列しており、冑を脇に抱えたカティヤと飛竜を、アレシュは紹介した。
「カティヤ・ドラバーグにございます。縁あって、今宵の戦に参加させていただきます」
簡単な挨拶をするカティヤの後ろで、ナハトも首を高くあげ、ご機嫌に鳴いた。
『彼女たち』と、ご紹介あずかったのが嬉しいのだろう。
飛竜を初めて見る者も多いらしく、どよめき声があがった。
「そういうわけだ。男として負けられないだろう?ストシェーダの恥を晒すような戦いはするなよ!!」
しかし、アレシュが快活に叫ぶと、どよめきは気合の雄たけびへ一気に変わった。
思わず、まじまじとアレシュを見つめてしまう。
用兵が上手いという噂も聞いていたが、士気のあげかたも見事なものだ。
今度は気付かれる前に視線を逸らし、冑をつけてナハトに乗り込む。
現地まで普通に騎馬で移動すれば、どんな急いでも三時間。
アレシュの魔眼で、先発の精鋭だけは瞬間移動させるらしい。
ただ、近場でもせいぜい百騎が限界のため、カティヤたちは自力で移動する。
「まさか竜姫がカティヤだったなんてな。君の戦いぶりも期待している」
どことなく少年じみた表情で、アレシュが見上げていた。
「女だてらに無茶をするなとは、おっしゃりませんか?」
「そんな心配が必要なら、最初からひっこんでろと言うさ」
「……ええ」
「去年、姉が竜姫の御前試合を見て感激していた。
顔を見る前に引っ込まれてしまったと、悔しがっていたがな」
口元が、勝手にほころんでしまった。
「殿下のご期待に添えるよう、最善を尽くします」