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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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3 稀代の竜姫-2

 ***
 
「どうだ、思い出したか?」

 期待いっぱいの顔で、魔眼王子はウキウキと尋ねる。

「……いえ、生憎と」

 冷淡な声で、カティヤは答えた。

 まだ、ものの数秒しか経っていない。
 今の今まで知らなかった事を、そんなにすぐ、思い出せるものか!

 だいたい、川辺で初対面の時から唐突な男だった……と、振り返る。


***

『カティヤ……?』

 目の前の空気がゆらめいたかと思うと、黒づくめの衣服を着た青年が立っていて、震える声でカティヤを呼んだ。
 そして次の瞬間、きつく抱きしめられていた。

『!?』

 とっさに避けられなかったのは、敵意や殺気といったものが、青年から微塵も感じられなかったから。
 傍らにいたナハトも、軽く翼を動かしただけで、特に咎めようとはしなかった。

『ど、どなたか知らないが、離してくれっ!』

 しばらく呆然と抱きしめられた後、我にかえって押しのけると、青年はやっと身体を離してくれたが、黒と金の瞳はカティヤを捕らえたまま離さない。

『……すぐわからなくても、無理はないな。アレシュだ』

『アレシュ……?』

 その名を聞き、珍しい瞳の色と、上着に刺繍された国章に目が留まる。
 かわされる言語は大陸共通語だが、まぎれもない隣国ストシェーダの紋章だった。

『まさか……アレシュ王子?ストシェーダの……』

『そうだ。カティヤ、俺だよ!』

 喜びに満ちた声でアレシュが叫び、もう一度抱きしめようとした腕を、今度はしっかり避けた。

『カティヤぁぁ!?』

 つんのめった王子が、不満げな顔を向ける。

『お初にお目にかかります、アレシュ王子』

 一歩離れた場所で、騎士団式の敬礼をした。

『大変失礼ですが、どなたかとお間違えのようです』

『だって……君はカティヤだ!!俺の婚約者の……』

 “婚約”の単語に、軽く目を見張った。

 ――完璧な人違いだ。

『ジェラッド王国 竜騎士団 副団長 カティヤ・ドラバーグにございます。名前は同じでも、殿下とは初対面と……』

『……』

 王子は、ショックを受けたようだった。
 よほど大切な人を探し、間違いだった事に落胆したのだろう……。
 そう気の毒にさえ思った。

 しかし、そんな淡い同情は一瞬で掻き消えた。
 王子の両眼に刻まれた金が光り、全身から黒い炎のようなものが立ち昇る。
 とっさに剣を抜いたカティヤの横で、跳ね起きたナハトも飛竜の名に相応しい翼を広げ、咆哮をあげる。
 空気をビリビリ切り裂くそれだけでも、大抵の人間なら臆してしまうところだ。
 だが、黙りこくってしまったのは、ナハトの方だった。

『ナハト!?』

 巨体を川辺に崩れこませてしまったパートナーに、カティヤは驚きの声をあげた。
 とっさにアレシュの両眼から目を逸らそうとした時には遅かった。
 放たれる光が強くなり……気付けば、この部屋にいたというわけだ。



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