第9話 push-3
行為が終わると、化粧台の前で身だしなみを整えていた。
例え幼い子供であろうとも、淫らな行為の境界線を引いて、顔を合わせたかった。
この日ばかりは、さすがに人の子供を預かってる事もあり、早々とリビングへと戻った。
リビングのドアの前に立つと、元気にはしゃいでいた子供達の声が、なぜか消えていた。
疲れて子供達は昼寝をしてると思い、起さない様にそっとドアを開けて部屋に入った。
しかし、リビングはもぬけの殻で、人の気配は見受けられなかった。
一瞬焦ったが、長女を寝かせたはずの、隣の和室の戸が閉められてるのに気付いた。
普段は開けっぱなしだが、子供達も一緒に寝てると思い、またそっと静かに近づいた。
それでも近づくにつれて、子供達の声が微かに聞こえてくるのが分かった。
元気にはしゃいだ子供達を考えれば不審に思う所もあるのだが、とりあえずは黙って様子を伺う事にした。
まずは、和室の戸に顔を近づけて、聞き耳を立ててみた。
「何だか私のお腹治ったみた〜い・・・これも先生のおかげだね」
女の子の声が聞こえてきたが、会話からして子供達の定番のお遊び、お医者さんごっこと思われた。
続いて、私の息子の会話が聞こえてくるのだが、声の様子からして少しおかしな事に気付いた。
「はあ・・・はあ・・・まだ駄目だよ美玖ちゃん・・・もう少し先生から見てもらわないと・・・はあ・・・はあ・・・ほら・・・こうすると気持ち良くなるんだよ・・・はあ・・・はあ・・・・・・」
会話の途切れ途切れに、鼻息を荒らした声が混じるのだ。
この異変に気付いた私は、中の様子も伺う事にして、そっと戸を開けて覗いてみた。
すると、信じられない光景を、目の当たりにする事になるのだった。
「こうすると私は治るの?・・・何だか少しお腹が痛くなってきたみたい・・・・・・・」
「はあ・・・はあ・・・美玖ちゃん・・・もうすぐだからね・・・はあ・・・はあ・・・もうすぐだから美玖ちゃんは我慢してね・・・はあ・・・はあ・・・・・・」
何と、鼻息を荒らした息子が、仰向けになる女の子の腹部にまたがり、押し付け行為をしていたのだ。
その腰つきは、幼い子供とは思えない程に尋常では無く、力強さを見せていた。
さらに、息子の顔を見れば恍惚の表情に満ち溢れており、すぐに異様な事態である事を察した私は、急いで戸を開けて中に入った。
「隆広!・・・何してるの!」
私の声で、息子は驚いて気が焦っていた。
自分の行為に罪悪感があったのか、しばらくは落ち着かないまま、辺りを見渡していた。
女の子に関しては、お医者さんごっこをしている事しか認識しか無く、ただ呆然としていた。
「ち・・違うよ・・・僕はただ・・・美玖ちゃんとお医者さんごっこをしているだけだよ。こうするとお腹が治るって・・・ただ診察していただけだよ」
息子の言い分けが本当ならば、毅然とした態度を見せてもおかしくは無かった。
明らかに目は泳いでおり、事の認識に罪悪感があったのも明白だった。
ただ、幼い息子にしてみれば、生理的に起した事で、何に対する罪悪感なのか検討すら付かなかっただろう。
とりあえずは、行為における快楽だけは、罪である事を認識させるしかなかった。
「良いから・・・美玖ちゃんから離れなさい」
息子は言われるがまま女の子から離れると、私に顔を向けたまま正座した。
正座したのは、罪の意識からだろう。
これから私は、その罪の根源を息子に教えて正さなければならなかった。
同じ頃に、快楽に身を投じていた事を考えれば、後ろめたい気持ちもあった。
さらには、子供達を放置した事が原因でもあり、私にも罪の意識はあった。
それ故に、手をあげる事を躊躇してしまい、言葉で事の重大性を認識させるしかなかった。
私は、正座する息子に近づいて、腰を屈めて肩に手をやり、優しい表情で見つめた。
「ねえ隆広・・・あなたは美玖ちゃんに、悪い事をしてるって分かるよね?・・・けっして子供がしちゃいけない事・・・どんな気分になった?」
「分からない・・・分からないけど変な気分になって・・・止められなくなったんだ」
「それはね・・・子供がすると病気になっちゃうの・・・だからね・・・隆広は決してやっちゃいけない事なの。お母さんだって・・・隆広が病気に掛かったら悲しいって分かるよね?」
「ごめんよ・・・お母さん・・・病気になるなんて僕知らなかったんだ・・・うっ・・うう・・・・・・」
出まかせのつもりだったが、息子は涙するほどに罪の意識を感じていた。
後は、決め台詞を考えて、面倒な子供の性教育に終止符を打つだけ。
非情な話しだが、みなぎる性欲に夫のセックスレスの問題を抱えていた当時の私としては、子供の些細な性の兆しなど、さほど大きな問題では無かった。
「だったらね・・・二度とやらないってお母さんと約束してくれる?。隆広だってね・・・大人になったらきっと分かる時が来るから・・・それまで我慢するって約束して」
私は息子に、約束を促すように小指を差し出した。
「うん・・・分かったよ。二度としないって、お母さんと約束するよ」
息子はそう言いながら、自分の小指を絡ませた。
「は〜い・・・げんまんよ。それじゃあ・・・これで終わりにしよ」
事は終息を見せ、円満に過ぎようとしていた。
とりあえずは誤魔化しだったが、全てが丸く収まりそうで、私も胸を撫で下ろしていた。
そんな矢先に、まるで悪魔のような少女の声が囁いた。