『MY PICTURE【スパゲッティと女】』-5
「しないの?」
ノンセパレートのバス・トイレには俺が先に入った。俺とすれ違いに風呂場に入っていった彼女の胸元の白いふくらみと、恐いくらいに細く長い肢体に目線が泳いでいってしまったのは事実として認めよう。しかし、女の方からそんな誘いを受けようとは思っていなかった。
「君は思ったより貞操固くないんだね」
言うと、彼女は少しひそめて俺を奇怪な生物でも見る様な表情をした。
「行為は所詮行為よ。それ以上でも以下でもないわ。愛の無いセックスも出来るし、愛情溢れるセックスだって出来る。それそのものに意味はないわ。そういうものにこだわるのは愚かだとおもうの。言担ぎと大して変わらないじゃない?」
「まあ、それはひとつの考え方だけど、だからと言ってわざわざする必要もないと思うよ。僕としてはどちらでも構わないけれど」
「もちろん、わざわざしたいとも思わないけれど。でも、私の経験的に男性はこういう場合たいてい“したい”でしょう?そういうとき、無駄に遠慮されたり我慢されたりするのは嫌なの。だから、もしそういう気分になったら言ってね。ゴムならあるから」
じゃあおやすみなさい、と言って彼女は布団に潜り込んでしまった。
「ああ、おやすみ」
来客用の敷布団があってよかった、と内心ほっとしながら俺は思った。多分、このまま何事も無く夜を明かすことが出来るだろう。あんな台詞を聞いた後に女を抱く気にはちょっとなれなかった。