『MY PICTURE【スパゲッティと女】』-2
彼女に始めて知り合った時、特別な感情はこれといって湧かなかった。随分愛想のない女だな、と、挨拶を交しながら感じたくらいだ。何の仕事で一緒になったのかは良く覚えていないが、確か春のバザールに向けたデパートの宣伝広告の仕事だったと思う。あまたある雑多な仕事。大小を問わず、俺に来るのはそういう「誰でも良いが誰かがするべき」仕事ばかりだ。だから、長く付き合う仕事仲間も特にいない。お互いに注意も払わない。俺と彼女もご多分にもれず、弱小カメラマンと売れないモデル。それだけだった。
「おつかれさまでした」
灯りも殆ど消え、誰もいないスタジオの白いスクリーンの前で、私服に着替えた彼女がぼうっと立ち留っていた。
「どうかしましたか?」
どうしてそんなことを尋ねたのかは今でも判らない。もしかしたら、数時間前までは3CAN4ONのファー・ジャケットにフレアのたっぷりついたPARIS PLACEのロングスカートを履いて、これみよがしのポーズをとっていた彼女を見た後の、手首の辺りのほつれた薄っぺらな白いニットのセーターに、膝の生地の破れたブルー・ジーンズという格好があまりにも頼りなげだったからかもしれなかった。