精霊人-17
「ああ……18番はまだ結果が出ていませんねえ」
男の顔が恐ろしい形相に歪む。
多分、本人は笑っているつもりなのだろうが他人が見たら恐怖しか感じない。
再び歩き始めた男は一番奥にある自分の部屋へ入った。
その部屋の天窓からコツコツと音がする。
「丁度良かった……君に会いたいと思っていた所です」
男は天窓を開けるハンドルを回し、来訪者を招き入れた。
バサッ
羽音と共に1羽の鷹が舞降り、備え付けの止まり木に止まる。
男は鷹の脚に付いた筒の中からメモ紙を出して、内容に目を走らせた。
「ゴイスですか……ゼロは何処に行くのでしょうね」
男は壁に貼ってある地図を眺めて、ゴイスの街を見つけるとそこにピンを刺す。
なんとなしにメモ紙を鼻に近づけ、ある事に気づいた。
「おや……潮の香りがしますね……ゴイスは山に囲まれた街なのですが……」
クンクンと臭いを嗅いだ男は、地図を眺めてニヤリと笑う。
「どうやら君のご主人様は私を裏切ったようですよ?」
男は冷たい視線を鷹に向け、その視線を受けた鷹は本能的に危険を感じて飛び立った。
シュルシュル
『クエェッ!』
同時にどこからともなく触手のようなものが伸びてきて、鷹を絡め捕る。
バサバサと翼を打ち付けて暴れる鷹は、ゆっくりと空中から引きずり下ろされた。
「恨むならご主人様ですよ?」
男は棚から瓶をひとつ取って、鷹の口を開かせてその中身を流しこんだ。
ドロッとした赤黒い液体は、生きているかの様にビュルッと勢い良く鷹の中に侵入していく。
『ケッ』
鷹は吐き出そうとして咳こんだが、特に変化が無いので足掻くのを止めた。
「さあ、ご主人様に今までの報酬を届けて下さい」
男は小切手に金額を書いて鷹の脚の筒に入れる。
すると、鷹を絡め捕っていた触手がスルリとほどけて鷹を解放し、鷹は慌てて天窓から逃げていった。
「無事に辿りつけると良いですけど」
男は天窓を見上げてクスクス笑う。
月の光が照した男の顔……その右目には瞼が無く大きく剥き出しの状態。
その目は天窓ではなく、遥か遠い月を通してゼロだけを見ていた。