精霊人-15
「何か用か?」
「別に?用がなきゃいけねぇか?」
そういうワケではないが、何となく居心地が悪い。
「まあ、一緒に旅するワケだし?腹割って話そうやってとこか?」
明日からはゼイン、カリー、スランの3人で行動する。
ゼインが遠慮するのが目に見えてるので色々と誤解を解いた方が良い、とスランは思ったのだ。
まあ、話せる内容に限りがあるので余計に誤解を招くかもしれないが、その時はその時だ。
「腹を割ってねぇ……」
ゼインは少し考えてから、おもむろに口を開く。
「あいつ、ガバガバだったか?」
ブハッ
予想外の言葉に、スランは飲んでいた酒を盛大に吹き出した。
「ゲホッ…そこかよ?!」
「いや……俺が規格外なのは聞いたんだろ?なんか責任感じてさぁ」
結構、貪欲に抱き続けてきたが締まりが悪いのは女にとっては致命的だ。
それが理由でこの先好きな男にフラれたりしたら申し訳ない。
「いや……大丈夫……だったけど?」
締まりは良かったしちゃんと強弱つけて……ってなんだ?この会話は?
スランはぐったりと萎えてしまった。
「ははっ…なら良いや」
ゼインは軽く笑って月を見上げる。
「……あんたさぁ……カリーが気に入ったんならどっか連れてってくれよ」
「はあ?」
いきなり何を言い出すのか、とスランはゼインに視線を向けた。
ゼインは薄く笑ったまま月から視線を外す。
「今なら……まだ大丈夫だから……さ」
「何がだよ?カリオ……カリーが好きなんだろ?」
横恋慕しておいて何だが、ゼインが言ってる事は納得いかない。
「ああ……好き過ぎて喰っちまうかもしんねぇ……」
「喰っちまえは良いじゃねぇか…っていうか、散々貪り喰ってんだろ?」
「比喩じゃなくてさ……まあ……色々あるわけさ、こんな俺にもね」
比喩じゃない?この男には何か重大な秘密があるようだ。
そうだ、雇い主が言っていた『ゼロ』……ここに秘密が隠されている。
スランはゼインの横顔を見ながら険しい顔になった。
「とにかく……カリーと、ポロを守ってくれりゃ良い……惚れた腫れたを抜きにして、そこは頼むわ」
ゼインは髪を掻き上げてそれを掴み、困ったようにスランに笑う。
もし、スランだったら喜んでカリーを喰うだろう。
しかし、ゼインはカリーを自分のものにするより、カリーが生きる事を望む。
カリーが言っていた自分達……暗殺者には見えないものを見る目。
確かに、この目は『生』に対してして純粋で誠実……世の中の暗い部分を知ってるくせにこの目は……狡い。