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THANK YOU!! ver.秋乃
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-1




「行ってきます」


そう小さく呟き、家を出る少女。
この街に来た去年の今頃よりも肩にかかる程長くなった髪を春の風になびかせ、細身の少女は歩く。まだ着慣れないブレザー制服のスカートをさりげなく抑えて、時折右肩にかけたバッグの持ち手をずり落ちないように直しながら。
胸に目をやり、いつもつけている鍵の存在を確認する。
その鍵を手で弄びながら、いつの間にか着いた最寄駅から電車に乗る。
座れそうな場所が無いので仕方なくバッグを自分の足元に置いてから、ドアに寄り掛かる。
流れる景色を楽しむこともせずにただボーッっと呆ける。

少女、柊秋乃はただ過ぎ去る日々を淡々と面白みも無く過ごしていた。
本来なら中学に入学したてでウキウキとかワクワクとかするのだろうが、今の秋乃にはそんな気持ちが湧いてくるわけもなかった。
小学6年の一年間で十二分に楽しい想いをしてしまって、一緒に居た彼女たちが居ない学校でどう楽しめというのだろうか。

その彼女たち・・東條瑞稀と鈴乃拓斗は別々の中学に入学した。
本来なら、中学が別になっても連絡を取り合っている筈だった。だけど、それが叶わなくなった。瑞稀が、連絡を取るのを嫌がっているからだ。
嫌がっている・・というと聞こえが少し悪いので変えると、連絡を避けている。
瑞稀からあとで聞いたが、拓斗が卒業式が終わって自分が帰ったあとに何か言ったらしい。
何を言ったかは細かく聞いていないが一つ確実なのは瑞稀の心を傷つけたこと。

この出来事が瑞稀に重く圧し掛かっているのだろう。
だからこそ、しばらくは時間を置いた方が無難と判断してそう告げた。
本当ならばすぐにでも傍に行って、ゆっくりと話を聞いて慰めて、拓斗の家に殴り込みにでも行くのだがそう簡単に出来ないのが現実問題だ。

軽く溜息をついたとき、電車が止まりドアが開いた。丁度降りる駅なので、ホームに降り立つ。

さて・・現実問題なら現実らしく解決しよう。どうすれば瑞稀が幸せになれるのだろうか。

そう考えて、顔を上げた瞬間・・。


「あー、きの、ちゃん!!」
「・・!!」

自分の目の前に現れる顔。近すぎて、焦点が合わせられない。とりあえず、目はハッキリ見えた。その目に、驚いている自分の姿が映し出されてる。
異常な近さに動けずにいると、さらに目の前に居る人物が顔を寄せようとしてきたのでハット我に返り、無理やり引き剥がす。



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