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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-8


「そういえば」
 航もまた、自分が口にした名前から連想して、思い出したことがあるらしい。
 大和はそれを遮らず、話の流れに乗る形で、航の言葉を待つことにした。
「誠治さん……一番上の、務兄さんの、奥さんの弟さんなんですけど、えっと、苗字は安原って言います。実はその、安原誠治さんも“隼リーグ”に参加してる大学、確か、仁仙大学の選手だったんですけど、病気で2年現場から離れてて……でも、今年から復帰できるって言ってたんで、多分、試合で顔をあわせることになると思います」
「仁仙大学……安原誠治……!」
 大和の脳裏に、閃くものがあった。
 一昨年の入れ替え戦のとき、観戦のために球場を訪れた大和は、その入り口付近で、具合を悪くしていた青年を介抱したことがあった。そして、その姓名が“安原誠治”だったと記憶している。
(店長がいつか言っていた、“隼リーグの至宝”)
 スランプに陥った結花に指導を頼まれ、その時には客として訪れた“豪快一打”での、風祭とのやり取りを思い出す。確か、当時の月間本塁打記録で、トップを走っていた名前も“安原誠治”だった。
 もっとも、大和が“豪快一打”でスタッフとして働くようになった頃には、記録もリセットされていたので、その名前を目にしなくなっていたのだが…。
「こういう再会もあるのか…」
 意外なところでの繋がりに、世間の狭さを感じる大和であった。

 スットライクゥ〜♪

「!」
 不意に、大和の胸ポケットから着信音が響いた。それが、ワンフレーズに留まったところを見ると、どうやらメールの受信を告げるものだったようだ。
「っと…」
 胸ポケットからコバルトのガラパゴス携帯を取り出した大和は、発信元である名前と、その用件を確認する。
『from sakurakko@……件名:桜子より、重大なお知らせです』
「重大なお知らせ?」
 思わず呟いた大和の言葉に、結花と航が顔を見合わせた。
「………」
 そんな二人を置き去りに、大和は受信文を画面に開く。
『お姉ちゃん、“おめでた”だって! どーしよー、あたし、もうすぐ“叔母さん”になっちゃうよ! まだ二十歳にもなってないのに、“叔母さん”だなんて、どーしよー(><;)!!』
 少しばかり緊張していた大和は、その文章を見た瞬間、桜子の姉である由梨が懐妊したという知らせに驚きつつ、桜子のはしゃぎぶりがメールの文面からも感じられて、吹き出しながら破顔していた。
「センパイ?」
 大和が見せたその表情は、結花にとって初めて目の当たりにする、“陽気”が満ちたものだった。
「なにか、いいお知らせだったんですか?」
「あ、ああ、ごめんね」
 メールに気を取られてしまった。しばらくとはいえ、二人を置き去りにしてしまったことを大和は反省する。すぐに携帯を閉じて、胸ポケットに仕舞いこんだ。
「ふ、ふふーん。センパイ、ひょっとして、今のって……」
 結花としては、からかいで終わらせるつもりだったのだろう。加えて、さっきから胸によぎって止まない“微かな不安”を、解消しておきたい思いもあったに違いない。
「…彼女さん、から?」
 それが、そんな不安を混ぜ込んだ、聞かでもがな一言になっていた。
「あ、ああ。実は、そうなんだけど…」
「!」
 結果、一番耳にしたくなかったであろう事実を、いともあっさりと大和の口から聞かされることになってしまった。
「………」
 一瞬の沈黙。本当に、ほんの一瞬だけ。
「な、なーんだ。センパイったら、彼女をほっぽらかして、わたしたちと練習しててよかったんですか? ほんとに、ハクジョーなんだから、もう」
 結花はすぐさま笑顔になって、矢継ぎ早に言葉を投げかける。
「彼女さんからの呼び出しだったんでしょ? すぐに、行ってあげなきゃ、だめじゃないですかっ」
「呼び出しってわけじゃあ、ないんだけど…」
「だめだめっ。そんなんじゃセンパイ、フられちゃいますよっ」
 笑顔のまま、まるでマシンガンのように言葉を並べ立てる。そうしないと、零れそうになるものが、抑えきれない。
「じゃあ、こっちから行っちゃいます。ほら、木戸、いくわよっ」
「ああ、わかった」
 立ち上がった結花に促されるまま、航も席を立った。
「センパイ、今日はごちそうさまでした!」
「草薙先輩、ありがとうございました」
「ああ。なんだか、中途半端になってごめんね」
「いえいえ〜。それでは、御機嫌よう〜」
 まるで貴婦人がするように、手の甲を頬へ当てる結花。その表情は、相変わらず笑顔であった。…大和に背を向けるまでは。
「明日、待ってるよ。結花ちゃん、木戸君」
「……っ」
 背中越しにその声をかけられたとき、結花の表情は一気に崩れた。
「………」
 航だけが、その瞬間を目にしていた。そしてこの時も、彼はその物静かな面持ちを崩すことはなかった。


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