『SWING UP!!』第9話-6
「明日は活動日だから、正式な入部はそのときだね」
三角キャッチボールのあと、トス・バッティングとベース・ランニング、そして、サーキット・トレーニングをこなしてから、クールダウンを済ませ、今日の練習は終了となった。
「………」
「………」
大和はそれらを軽くこなしているように見えたが、結花と航は、ついていくのが精一杯だった。実際、途中から、結花と航は交代で休みを挟んでいた。二人のオーバーワークを心配した大和が、そうするように言ったからだ。
確かに、受験によるブランクはある。しかし、それを加味しても、根本的なスタミナは到底、先輩に及ぶものではない、と、思い知らされた。
「入学初日なのに、無理につきあわせちゃったな。お詫びに、学食でよければ奢るよ」
「え、いいんですか?」
それを受けるや、結花の顔が、きらりと輝いた。疲労困憊といった表情は、綺麗さっぱり消えている。
「えっと、メニューは限定させてもらうけどね」
結花の表情に、財布の不安を感じた大和は、そう付け加えるのを忘れなかった。
学食の中で人気を誇る“カツサンド・プレート”というのがあり、メインのカツサンドだけではなく、ハッシュドポテトにコーンサラダと、日替わりスープも一緒になって480円というお値段の代物だ。
それを二人に振舞おうというのである。
「なんだか、すみません」
大和の申し出を、初めから受け入れ態勢準備万端の結花とは違って、航は、純朴な表情そのままに、遠慮がちな様子を見せていた。
「有望な新人が二人も来てくれたんだ。先輩らしいところも見せないとね」
航の遠慮を遮るように、大和は言う。そして、着替えを済ませてから、二人を伴って、学食のある建物へと二人を先導しながら向かった。
双葉大学の学食コーナーは、“生活支援館”と名前がつけられた3階建ての建物の1Fにある。100名は座れようかという広いスペースがあり、そして今も、本格的に新学期が始まっていないにも関わらず、その3割が学生で埋まっていた。
券売機で“カツサンド・プレート”を3枚選択し、先に二人を席に座らせてから、大和は学食販売カウンターへと向かった。
なんというか、至れり尽くせりで、結花も航も恐縮してしまう。
「片瀬は、草薙先輩と同じ高校だったんだよな?」
部室でのやり取りを聞いていれば、自然とそういう結論に辿り着く。
「高校でも、あんなに良い人だった?」
「良い人だったのは違いないけど……」
さらに輪をかけて“良い人”になってる、と結花は続けた。
「それに、すごく“明るく”なった…」
「明るく?」
「うん…」
大和が甲子園のマウンドで肘を壊し、以降の野球部での活動が満足に出来なくなった時の姿を、結花は見ていた。自分に接してくれているときは、暗い表情を作りはしなかったが、その奥に差している“陰”のようなものを、結花はいつも感じていた。
その“陰”を、いつかきっと自分が癒して見せる…そう考えてもいた。
だが、今の大和からは“陰”を全く感じなかった。
そして何故か、直感的なところで、それに対する不安めいたものを、結花は感じ始めていた。