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映画館にて
【同性愛♂ 官能小説】

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映画館-2

僕はぼんやりしながら、隣の男を見ると、すっと立上り、顔も見せずに背中を向けて静かに立ち去っていった。

僕は騙され置き去りにされた様な欲求不満と、濡れたあそこを拭く為に、男を追いかける様にトイレに向かった。ひょっとしてトイレにまだあの男がいるのではと思って。

でももう男はいなくて、僕は濡れたあそこを良く拭いて、出口に向かった。そして年増の女性が俯いているフロントの前を通って、外に出た。

外は午後の日差しが冷たく輝く冬空で、僕は途方も無く駅に向かって歩き始めた。何か犯されたか弱い少女の様な満たされない惨めな気持ちで歩いていると、もう会社に戻る気などしなくなった。

どうせ戻ったって、今日の成果を報告し、鬼の様な営業部長に成果ゼロをそしられ怒鳴られ、焼きを入れるとか言われて皆の前で立たされるのだ。

もう耐えられない、辞めてやる。そもそも高貴で華奢な女性の様な僕が入るような会社じゃなかったのだ。何の因果でこんな会社に入る羽目になったのか。

学生時代に就活もしないで、卒業してからも家でぶらぶらしてたので、今更まともな会社なんかじゃ雇ってくれないし。だけど何で又あんな会社に、あの営業部長など世が世なら僕に対して口も利けない様な立場のゲス野郎のくせに。

そう思うと、もう後には引き返せない。昨日安い給料も出たし、このままキャバクラでも行って帰るか。

でも心細いな、奥手で気の弱い僕を慰めてくれる様な優しくて頼りがいのある男の人は(女の人でもいいけど、いそうにないし)いないかな。やっぱり会社に戻って俯いて屈辱に耐えても家に帰った方がいいかな。

その内日が暮れて、冬の風が冷たくなって来た。どうしよう。でも映画館でのあの事が忘れられなくて。ぶらぶら歩いているうちに東京駅の八重洲口に来てしまった。

暫く地下街を歩くと、少し奥まった角にホームレスの男がいた。汚い、中年で、顔は無精ひげで覆われ頭はぼさぼさ、でも体はまるで相撲部屋から追出された元力士の様にがっちりと逞しく、不潔だけど健康そうに見える。その男と目が合って僕は変な事を考えた。

"この男風呂にも入った事ないんじゃないか"と。すこし行ったところに公衆温泉浴場があったような気がした。そう確か”東京温泉”とか何とか。この男を温泉浴場につれて行き、綺麗に体を洗ってやったら(自分で洗わせるか)きっと喜ぶんじゃないか、そしたら僕に感謝して寂しがりやで甘えん坊の僕に優しくしてくれるかも知れない。


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