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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★★★-4

「かんぱーい!お疲れー!」
カチカチとグラスの当たる音が響き渡る。
いつもは先陣を切る奈緒を差し置いて、楓が半ば強制的に席決めをしてくれたため、席は理想の形となっていた。
しかし、奈緒の向かいは湊だ。
それはそれで仕方がない、隣よりはマシだ、と陽向は自分に言い聞かせていた。
乾杯の後はとりあえず自己紹介から始まり、みんなの名前を知った。
「ねー。陽向ちゃんってさー、背何センチなの?」
一通り自己紹介が終わった後、陽向にそう問いかけてきたのは湊の友達のチャラ男だった。
坊主頭にキャップを浅く被り、見た目はB系のイケイケ野郎だ。
確か、タケって呼ばれてた。
「150。みんなにチビってバカにされんの!」
「うっわー!小っちゃいね!俺っちと20センチ以上も違うじゃん!」
「あははは!」
「顔も幼いし、可愛い。目もクリクリだし外人の子供みたい」
無駄に褒めちぎられ、返答に困ると共にチャラ男が相手だとなんだか不愉快。
しかし「なにそれー!でも童顔で困ってるんだよ!必ず年確されるし」と笑顔でやり過ごす。
気付いたら、会話はテーブルの真ん中から半分に分かれ、こちら側は陽向、楓、尊、啓吾、向こう側は奈緒、千秋、湊、雅紀となっていた。
向こう側では、奈緒が湊に対し猛烈アタックしており、雅紀は奈緒がお気に入りなのか、頑張っている様子だった。
ふと、奈緒の手が湊の腕に触れたのを陽向は見逃さなかった。
ドクンと心臓が脈打つ。
湊も湊で酔っ払っているのか、拒否せず笑っている。
怒りが湧き上がってくる。
「ヒナ、大丈夫?顔真っ赤だよ」
「へっ?あ、うん。へーき!飲も飲もー!」
「まだいけちゃうー?はい、じゃあ俺っちのもあげちゃう!」
尊が陽向に自分のお酒を渡す。
ぼやんとした頭で怒り任せにそれを一気に飲み干す。
「うぇー!まずい!なにこれ!」
「ウィスキーでっせー。俺っちのお気に入り、ジャックダニエル!」
「あぁぁ…胸がムカムカする」
陽向の反応に三人が爆笑する。
「もっと飲んでー!今の顔めっちゃ可愛かったー!」
不意に、尊の手が頬に触れる。
「お肌スベスベだね♪」
「えー?そうー?」
お酒のせいで、嫌だけど冷静になれない自分が悲しい。
尊になんやかんやされているのを、湊がしっかり見ている事に陽向は全く気付かなかった。

開始から二時間が経過した。
陽向の目がウトウトしてきていることに、湊は随分前から気付いていた。
尊にほっぺたを触られたりしているのに陽向はケタケタ笑っている。
もう、見ていられない。
「ちょっと、トイレ」
湊は立ち上がり、トイレに向かった。
あーイライラする。
用を足していると、真っ赤な顔をした雅紀がやって来て湊の隣に来た。
「酔ってんね」
「まーねー。つーか奈緒ちゃん湊の事ホント好きだよなー」
「そ?俺は興味ねーけど」
「ちょー羨ましいんですけど!俺は奈緒ちゃんのことめっちゃ好きなのに!」
湊は水で手を洗いながら「告りゃーいーじゃん」と言った。
「そーゆーわけにもいかないんすよ、湊さん」
雅紀の言葉に湊は、ははっと笑った。
「それとさ」
今度は雅紀が手を洗いながら口を開いた。
「タケちゃん、風間に猛アタックしてるよね」
さすがにその言葉には笑えなかった。
「あんなタケちゃん初めて見た!ありゃ本気だなー…」
「本気なんかねー?」
「本気っしょー。風間はタケちゃんみたいな奴、好きなのかな?つーか風間って彼氏いんのかな?ガード固そーだよな」
雅紀は楽しそうに言うと「いないなら、俺がタケちゃんのためにひと肌脱いじゃおっかな」と言い始めた。
それは是非ともやめていただきたい。
「やめとけ、あいつ彼氏いるから」
「へっ?そーなの?うっそー!誰?俺の知ってる子?つーか何で湊がそんなこと知ってんの?」
もう、後戻りできない。
雅紀になら言っても構わないだろう。
「その彼氏ってのは俺」
湊の口から出た言葉に、雅紀は一瞬固まった後「またまたー!冗談言うなって」と爆笑した。
「冗談じゃねーよ。陽向の彼氏は俺だよ」
湊が「陽向」と口にしたことで、雅紀はそれが事実だと悟った。
「え、マジなの?」
「マジだよ」
「嘘だろー!え、だってお前らめちゃくちゃ仲悪いじゃん!え、何?なんの報告も受けてねーよ俺!」
「だって言ってねーもん」
「はぁー…マジかー。でも、どーやって落としたんだよ?男にあんま興味なさそーじゃん、風間って」
「それは秘密」
「あはは!でもお似合いだよ」
雅紀は笑った後「あ」と顔を強張らせた。
「じゃあ、タケちゃんのあれ、ヤバいんじゃない?」
「相当ね。殴っていーかな」
「湊が彼氏って聞いたらタケちゃん青ざめるだろーなー」
湊は鼻で笑って「戻るか」と言い、みんなが盛り上がっているであろう席に戻った。

席に戻ると、尊が「遅いよー!」と大声を上げた。
啓吾と尊が立ち上がり、湊と雅紀を奥に座らせようとする。
「あー。いい、いい。席替えしよ、席替え!」
雅紀はニッコリ笑ってそう言うと、啓吾と尊を奥に追いやった。
その隣に雅紀が座り、湊は一番端に腰を下ろした。
目の前には陽向の眠そうな顔がある。
湊が目の前に来たことに、陽向は驚いた顔をした。
「水嶋っち、お酒強いねー!」
雅紀は水嶋楓のことを、何故か水嶋っちと呼ぶ。
二人は楽しそうに話している。
「風間も飲もーよ!」
半開きの目で陽向はまたケタケタ笑った。
雅紀からマリブコークを受け取り、それを飲む。
それから一時間後、陽向は潰れ、起こしても目を開かなかった。



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